【競馬】2012年のクラシックロードは、ディープ産駒が席巻する!? (2ページ目)

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • 村田利之●写真 photo by Murata Toshiyuki

 この馬については、実は記憶に残るやり取りがある。

 昨年の11月末のことだ。ジョワドヴィーヴルの主戦を務める福永祐一騎手と話す機会があり、その際、今春のクラシックを目指す2歳馬たちの現況について聞いた。すると、福永騎手の答えは「牡馬は何頭か強いのが出ているけど、牝馬は混戦」というものだった。

 このとき、ジョワドヴィーヴルは牡牝混合のデビュー戦(京都・芝1600m)を「さすが」と思わせる競馬ですでに勝っていた。にもかかわらず、福永騎手の2歳牝馬戦線の評価は「混戦」だったのだ。

「混戦」という評価を聞いたあと、「では、ジョワドヴィーヴルは?」とも質問したが、反応は今ひとつ。阪神JFへの出走は抽選だったから、強気なことは言えないという事情があったのかもしれない。しかし1年前、福永騎手騎乗で阪神JFに挑んで勝ったレーヴディソールについて、同じようにレース前に話を聞いたときと比べると、その内容のトーンは決して高くはなかった。

 素質は一級品と認めつつも、どうやら福永騎手はデビュー戦の走りに、何かが「噛み合っていない」と感じるところがあったらしいのだ。それは、これまで福永騎手が乗ってきた、トップレベルの牝馬たちのこの時期と比べると、完成度で物足りなさを感じたということだったのだろうか。

 だが、この時期の2歳馬には短期間にグンッと成長することがある。また、デビュー戦を1回経験したことで、覚醒(かくせい)したように走りが一変するということもある。馬が見違えるほどよくなって、阪神JFで完勝劇を演じたジョワドヴィーヴルは、おそらくはこのタイプだったのだろう。

 デビュー戦からその間における変貌(へんぼう)ぶりは、レース後の福永騎手や他の関係者たちのコメントによく表れている。福永騎手は、返し馬で「噛み合っていない」感覚が解消され「走りが変わっている」ことを実感して驚き、数々の名牝や名馬を育てた松田博資調教師も「これだけ変わるとは......」と感嘆。かなりの衝撃を受けたという。

 プロたちでさえも舌をまく、わずかな期間でのドラマチックな成長こそ「持っている」馬ならではのこと。阪神JFの勝利でひとつの奇跡を起こしたが、彼女ならこの先、いくつものミラクルを演じてくれそうな予感さえする。

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