【木村和久連載】プロを震え上がらせた設計。鬼才ピート・ダイを偲ぶ (4ページ目)

  • 木村和久●文 text by Kimura Kazuhisa
  • 服部元信●イラスト illustration by Hattori Motonobu

 ピート・ダイは、スコットランドに行ってコースの勉強してきた、と先に触れましたが、それは1962年のことです。実は井上誠一も、1962年にスコットランドに行っているんです。ドンピシャ同じ年とは、まことに奇遇です。

 その年、井上誠一は新聞社の計らいで、スコットランドとアメリカのコースへと視察旅行に行っています。ひょっとしたら、どこかで会っていたかもしれません。

 ところで、井上誠一はこのコース視察の旅で、たくさんのことを学びました。もちろん、気に入らないことも多々あったようですが......。そのひとつが、グリーン周りのバンカーに並んでいた枕木。

 井上誠一はそれを見て、「せっかくグリーン周りまでボールを運んだのに、枕木に当たって、予想外の方向にボールが跳ねるのは、アンフェアだ」と言っていたとか。だから、井上誠一設計のコースは、枕木を使っていません。

 枕木を重用したピート・ダイ、それを嫌った井上誠一。同じものを見ても、ふたりの見解は大いに違ったわけですな。

 それにしても、ピート・ダイは、安価で手に入る廃材だから枕木を使ったのに、今じゃあ、枕木がコンクリートに。むしろ、廃材のほうが高くつくって、そんな不思議なことが起こっています。

 井上誠一はまた、欧米旅行で得た知識から、日本のコースに面白いエッセンスを取り入れています。それは「ビーチバンカー」。日本名で言うと「渚バンカー」です。

 井上誠一は、世界一のコースの称号を長らく得ていたアメリカのパインバレーGCに行った時、14番ショートホールのグリーン手前にあるバンカーの砂と、そのさらに手前にある池の水との境目がなく、渚のようになっている様子を見て、「実に風情があって、よろしいではないか」と感激したそうです。

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