スーパースター渋野日向子。
タイガーに匹敵する「怖さ」を備えている

  • 水野光博●構成 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by Kyodo News

 どれだけ精神力が強くても、ラウンド中の4時間、ずっと集中力を維持することはできません。彼女は、オンとオフの切り替えが実にうまい。「モグモグタイム」などと言われて、コミカルな感じで紹介されたりもしますが、あの年齢でセルフコントロールができているのはすごいことです。

 また、全英女子オープン優勝後、一時、世の中の喧騒に振り回され、少しリズムを崩した時期がありました。そんななかでも、彼女は復調のきっかけをつかむことができました。

 さまざまな要因があったと思いますが、そのひとつに、ソフトボールが大好きな渋野が、神のように崇める上野由岐子との対談にあったと見ています。その対談中、上野から渋野は「モチベーションがなくなることは、心が渇く、ということ。(アスリートは)その心の渇きをなんとかして、潤さなければいけない」という言葉をかけられた。それが、渋野にとっては、すごく大きかったのではないでしょうか。

 その後、国内ツアーでも2勝(今季通算4勝)を挙げて、最後まで賞金女王争いに絡んでいったことは、本当に大したものです。今の彼女を見ていると、海外メジャーに勝ったということが、いい意味でプレッシャーとなり、「普通にやれば、上位にいける」という自信につながっていると思います。

 過去、ジャック・ニクラウスがトップと5打差以内で最終日を迎えたら、「ニクラウスが勝つ」と言われていたことがありました。また、タイガー・ウッズなんかは、最終日を迎えて6打差あっても「必ず優勝争いに絡んでくる」と思われて、ほかの選手が過剰に反応して怯えていたものです。

 現在、渋野もそんなふうに思われているような感じがします。下位に甘んじていても「いつか上がってくる」と、上位陣に恐怖心を抱かせているのです。実際、9月のデサントレディース東海クラシックでは、最終日に8打差をひっくり返して逆転優勝を飾って見せました。

 渋野本人が好むと好まざるにかかわらず、すでに彼女からはスターのオーラが出ています。ギャラリーが想像する以上のことをやってのけてしまうのは、スターの条件です。女子ゴルフ界に、新たな、そして真のスーパースターが生まれたな、と感じずにはいられません。

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