渋野日向子が愛される理由。精神科医「周りの人間を幸せにするタイプ」 (2ページ目)

  • 浅田真樹●取材・構成 text by Asada Masaki
  • photo by Kyodo News

 つまり、自分を信じるというのは、ダメな自分も受け入れるということであり、ダメなときにはダメなりにどうしようかを考えられるからです。自分が今、緊張しているなと思ったら、「じゃあ、深呼吸でもしようか」とか、「コーチに相談してみようか」とか、考えることができるんです。本当にパニックに陥っている人は、自分がパニックになっていることにも気づきませんから。

 もちろん、本当に緊張し切ってしまい、そんなにいい成績が上げられないこともあるでしょう。でも、そういうときには、悪いなりにプレーして切り抜けて、気持ちが乗り出したときには勢いが止まらないというのも、彼女らしいところじゃないでしょうか。

 僕は結構、そこが重要なポイントだと思っています。精神科の治療で、「あるがまま」という言葉があります。つまり、いいときでも、ダメなときでも、あるがまま。ダメなときはダメなりに。乗っているときはその流れを壊さず、あえて乗りに任せる。

 渋野さんは、まだこんなに若いのに、割と常に自然体でいられる。すなわち、"あるがまま"でいられるように見えます。逆に、若いから自然体でいられるのかもしれませんけど。とにかく、彼女を見ていると、よそ行きの振る舞いをしているとか、ウソをついているとか、というふうには見えない。そういうところは、なかなか素敵ですね。

 持って生まれた性格もあるのでしょうが、渋野さんは、勝ったときに自分が喜ぶタイプというより、勝ったときに周りの人間が幸せになるタイプですよね。つまり、「勝ってよかったね」と周りに思わせるかわいさがある。全英で勝って帰国し、「賞金女王になりたい」と言っても、「なんだよ、いきなり天狗かよ」とは思わせない。そういう発言すらかわいく見えるところが、彼女の強みですよね。

 精神医学の世界でも、昔は治療者(精神科医)が患者さんから見て、理想化されるほうがいいとか、どちらかというと、治療者が上から目線だったんです。しかし、最近のトレンドとして、治療者は患者に"同じ人間だ感"を持たせることが、治療をうまくいかせる方法だというのがあるんです。

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