渋野日向子の強さを精神科医が分析「バウンスバックはしなやかさの表れ」 (3ページ目)

  • 浅田真樹●取材・構成 text by Asada Masaki
  • photo by Kyodo News

 僕が今教えている受験勉強法の最初の成功者は、僕の弟だったわけですが、弟は灘高校に落ちて、違う高校へ行き、その学校での成績は200人中80番くらいだから、悪くはなかったけれど、そもそも東大に10年にひとり、京大に1年にひとり合格するくらいの高校だったから、「関関同立に行きなさい」っていう成績でした。でも、僕は「この学校のやり方が悪いからだ」と弟に言って、僕が勉強法を教えました。そうしたら、東大の文一に現役で受かったわけです。

 ここで一番重要なポイントは、そんな成績では絶対東大なんかに入れるわけがないのに、「やり方を変えたら入れるかもしれない」って思う、弟の能天気さ。どの勉強法がいいとか、悪いとかよりも、そのことのほうが本当は大事なんです。挑戦しない限り結果は出ませんから。周りの人たちは、東大に受かったというところだけに目を向けてしまいますけど、挑戦する"厚かましさ"というのはすごく大事だと思います。

 渋野さんが全英女子オープンを勝ったときでも、それまでの実績から普通に考えたら勝てるわけがない。でも、そこで「勝てるかも!」と思える厚かましさが、きっと彼女にはあるわけですよ(笑)。何度も受験勉強の例え話になってしまうけれど、本人は謙遜して「○○大学に受かったのはマグレだよ」とか、「受かるとは思っていなかったよ」とか言っていても、そういう人はだいたい「奇跡はあるかもね」って思っていたはずです。

 最近、僕は幼児教育であれ、子育てであれ、とにかく「子どもに絶対自分がバカだと思わせちゃいけない」ということを言い続けています。算数ができて、国語ができない子どもがいたとき、普通の親や教師は、苦手な科目をやらそうとするんだけど、それよりも、まずはできる科目を伸ばすようにします。自分を賢いと思わせ、やれば伸びる経験をさせると、子どもの物の見方は変わってきますから。それは、わりと小さい頃から植えつけておくことが大事で、自分をバカだと思わせてはいけないんです。結局、自分はダメだと思って得することなんて、あまりありませんからね。

 大人になってから、悲観を楽観に変えるのはすごく難しい。結局は、楽観的なところが、彼女の最大の長所なのかなと思います。

和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年6月7日生まれ。大阪府出身。東京大学医学部を卒業後、東大病院精神科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローなどを経て、現在は国際医療福祉大学大学院心理学科教授。和田秀樹こころと体のクリニック院長。

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