渋野日向子の強さを精神科医が分析「バウンスバックはしなやかさの表れ」 (2ページ目)

  • 浅田真樹●取材・構成 text by Asada Masaki
  • photo by Kyodo News

 世の中には、挫折に強い人と弱い人がいます。例えば、開成高校から東京大学に進み、外務省に入った人が、次官レースに負けた途端、鬱になっちゃうとか、自殺しちゃうとかいう話があったとき、「それは挫折を知らないからだ」って言われることがよくありますが、我々精神科医の立場からすると、彼らは挫折を知らないからヘコむんじゃなくて、他の道を知らないからヘコむんです。もし開成に落ちても、違う高校から東大に受かればいいんだし、次官の競争に負けても、外資系企業に移って年収を3倍にしようと考えるのもいいでしょう。何かがダメになったとき、オルタナティブ(代替案)が用意できる人はわりと挫折に強いわけです。

 僕も受験勉強を教えるときに、考える力とは何かと言ったら、目の前にある難しい数学の問題を考えることではなく、それができなくてもどうやったら受かるかを考えることが本当の考える力だと、受験生に指導しています。

 だから、メンタルが強いとか、弱いとかっていうのは根性論ではなくて、メンタルがしなやかかどうか、なんです。ゴルフという競技は、1ホールごとにうまくいったり、いかなかったりするなかで、うまくいかないなりに、そこをどうやってかわすかが重要だと思いますから、特にしなやかさが求められますよね。

 バウンスバック(ボギー以下のスコアだったホールの、次のホールでバーディ以上のスコアを出すこと)が多いのも、彼女のしなやかさの表れ。気持ちの切り替えが早いからだと思います。そこは評価に値するところですよね。崩れ出したらボロボロになるのは、歳の若い選手にありがちなことですから。

 そういう意味では、渋野さんは、乗っているときと、乗ってないときの差が大きいのかなという気はしますが、大坂さんよりもしなやかな印象はありますね。渋野さんの場合、持って生まれた性格が、どちらかと言うと楽天的ということも影響しているのだと思います。

 でも、これはすごく大事なことです。受験生を指導していても、例えば、「この勉強法で東大に入れる!」みたいな本があったとき、楽天的な人は「オレも受かるかも」と思って、成績が悪くても買うけれど、そうでない人は、「いや、オレには関係ないよ。無駄、無駄」って思っちゃう。それはゴルフでも同じだと思います。

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