渋野日向子は「根っからの勝負師」。村口史子が振り返る「奇跡の瞬間」 (2ページ目)

  • 柳川悠二●構成 text by Yanagawa Yuji
  • photo by Kyodo News

 渋野さんは、自然体を貫いていました。最終日も、いつものようにニコニコしながら18ホールを回っていました。もちろん、ミスもたくさんありましたが、彼女は"やられたらやり返す"くらいの強い気持ちをもって、そのミスを帳消しにしていきました。

 全英女子オープンの1カ月前、彼女にとって国内2勝目となった7月の資生堂 アネッサ レディスオープンでも、私はラウンドレポーターとして、彼女の組についていました。あの頃は、そこまで強いゴルファーだという印象は抱かなかったんですが、流れを引き寄せる"運"は持っているな――そう感じていました。

 そうして、全英女子オープンでは、日本でプレーしている時以上に笑顔を振りまいてラウンドしていた渋野さん。子どもたちだけじゃなく、大人たちにもハイタッチしながら、次のホールに向かっていきました。周囲を引き込んで、彼女を応援したくなるようなムードを作り出し、私は会場の空気が徐々に変わっていくのを感じました。その結果、大勢のギャラリーが見知らぬ日本人選手をいつしか応援するようになっていったんです。

 初めての海外の大会で、こんな立ち居振る舞いができる日本人選手は、これまでに見たことがありません。メジャー大会となれば、海外のトッププレーヤーでも、そうはいきません。みんな、ピリピリして、声もかけられないような状態ですから。その点、彼女はプレーではもちろんのこと、そうした振る舞いによって、ギャラリーまで味方につけていった。その様子を見て、私もすごくうれしくなったし、「がんばれ」という気持ちが強くなりました。

 渋野さんとは、練習日にも会話を交わしました。今大会の開催コース、ウォーバーンGC(イングランド)が英国特有のリンクスコースではない点について、その感想を訊ねると、「リンクスコースだったら、端から予選落ちですわ、ハハハッ」と、笑い飛ばしていましたね。

 事実、あまり絶好調という感じには見えず、アイアンの練習でも、ミスしては考えて、また打って、また考えて......その繰り返しでした。そして、まだ大会が始まっていないにもかかわらず、「早く日本に帰りたい」と最初から言っていたようです。

 はっきり言って、メジャー大会での勝利に向けて、ひたむきな様子はまったくありませんでした。まさしく"無欲"。それが、よかったんですかね......。

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