もう優勝できないと思った──
イ・ボミが初めて味わう苦悩のシーズン

  • 金明昱●取材・文 text by Kim Myung-Wook
  • photo by Getty Images

 過去2年間は「疲れた」「しんどい」が口癖だった。

 2015年は年間7勝、翌2016年は年間5勝を挙げて、2年連続賞金女王に輝いたイ・ボミ(29歳/韓国)のことだ。

 昨季、一昨季と、彼女は常に"賞金女王"というプレッシャーと戦っていた。自ら課した目標ではあるが、周囲の期待も膨らむ中で、その重圧に追い込まれるたびに、精神的にも疲弊していったのだろう。しばしば、後ろ向きな言葉をポロッと吐くときがあった。

 しかし、外から試合を見ている人にとっては、そんなイ・ボミの精神状態など知るよしもない。過去2年間は、いつも笑顔で振る舞って、他を圧倒する強さがあったからだ。

 2014年、最愛の父を亡くしたイ・ボミ。賞金女王のタイトル獲得は、その父との約束だった。その分、「必ず勝ち取らなければいけない」という思いが強かった。それが、知らず知らずのうちに、彼女にとって相当な重荷になっていったのかもしれない。

 また、2016年はリオ五輪出場へ代表権の獲得を目指しつつ、2年連続の賞金女王も狙った。そのときは、スケジュール的にも、精神的にも余裕がない状態で、かなり追いつめられていた。

 そういう状況の中で、「疲れた」や「しんどい」と愚痴るのも致し方ないことだった。

 とはいえ、過去2年間は結果がついてきた。心労が続き、精神的につらく、苦しいシーズンだったとしても、勝利し、栄冠を獲得することで、弱っていた心も、沈んでいた気持ちも解放することができたと思う。

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