世界中で悲鳴。「スピースの悲劇」に想うマスターズ大崩れの歴史

  • 武川玲子●文 text by Takekawa Reiko
  • photo by PGA TOUR

 スピースが最初に打ったティーショットは、グリーンをショートすると、傾斜を下って水面へと転がり落ちた。瞬間、ため息交じりのどよめきがパトロンから起こった。

「9番アイアンでドローを打とうと思ったのに、ひどいスイングをしてしまった」

 頭を抱えたスピース。第3打は、ピンまで80ヤード地点にドロップした。

 仕切り直しての一打。スピースがフルスイングしたショットは、クラブが地面を強く叩いた。完全に打ち損ねたボールは、グリーン手前のクリークに再び飛び込んだ。今度はパトロンから大きな悲鳴が上がった。

「何が起きたのかわからなかった。ものすごくダフッてしまった」

 第5打もグリーンをオーバーし、奥のバンカーに入れてしまった。結局、6オン1パットの「7」。スピースは1ホールで4つもスコアを落として、首位の座をダニー・ウィレット(28歳/イングランド)に譲った。

 スピースはその後、スコアをひとつ伸ばしたものの、最終的に通算2アンダーの2位タイ。今年はグリーンジャケットに袖を通すことができなかった。

 思い出したのは、ちょうど20年前、1996年大会におけるグレッグ・ノーマン(オーストラリア)の言葉だ。

「アドレスに入ったとき、頭が真っ白になって、突然何をしているのか、わからなくなってしまった」

 最終日を首位で迎えたノーマンは、2位のニック・ファルド(イングランド)に6打差をつけていた。ところが、その日「78」と大きく崩れて、ファルドに逆転優勝を許してしまったのだ。このときも、ノーマンが12番のティーショットを池に落としている。

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