賞金女王イ・ボミが「ゴルフはもうやめる」と言って涙した日 (4ページ目)

  • 金明昱●文 text by Kim Myung-Wook
  • photo by Getty Images

 その決意を聞く前に、女王イ・ボミの軌跡をたどってみたい。

 イ・ボミは、韓国の首都ソウルから車で1時間もかからないほどの、水原という街で生まれた。日本でも広く知られているサムスンの企業城下町であり、1997年に世界遺産に登録された水原華城が名所のひとつ。食で言えば、焼肉の『水原カルビ』が有名で、ソウルからわざわざ食べに来る観光客も多い。

 その街で、父イ・ソクチュさん(享年57歳)、母イ・ファジャさんの次女として、イ・ボミは誕生。そして彼女が5歳のとき、家族は韓国の北東部に位置する江原道(カンウォンド)麟蹄(インジェ)郡に引っ越した。その地で、父の手ほどきを受けて、イ・ボミはゴルフを始めた。12歳のときだった。

 きっかけは、イ・ボミがテコンドーの道場に通っていることを、父親が知ったときだった。父親は急に怒って、「ゴルフをやりなさい!」と言われたという。イ・ボミにとっては、思わぬゴルフ人生のスタートとなった。

 今や、韓国女子ゴルフ界の英雄と言われる朴セリが、当時米女子ツアーで活躍。全米女子オープン、全米女子プロ選手権を制すなどして、韓国国内でも大々的に報じられ、一大ブームとなった。母ファジャさんによれば、「夫は朴選手の大ファンでした」という。

 とはいえ、イ・ボミが当時暮らしていたところには、ゴルフ場はもちろん、練習場さえなかった。とてもゴルフをするような環境ではなかった。一番近い練習場でも、自宅から車でおよそ1時間半。その途中、韓国では有名な雪岳山(ソラクサン)という山を越えなければいけなかった。それでも、娘に厳命を下した父親は、娘を毎日、練習場に連れていった。

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