【ゴルフ】崖っぷちの諸見里しのぶ「1円でも稼ぎたい」

  • 金明昱●文 text by Kim Myung-Wook
  • 小内慎司●撮影 photo by Kouchi Shinji

「でも、今年は少しずつよくなっていて、そんな自分に『私、こんなによくていいの?』って思ってしまう自分がいるときがある。いいときの感覚が久しぶりで、(順位や調子が)よくなっていくと、そう思って緊張しちゃうんですよね(笑)。それで、これまでは結果を出せなかったりしたんですが、自分自身で調子のいい状況にいることが当たり前だと思えるようになって、いい位置にいても気負わずにいられるようになれば、もっと優勝争いにも加わっていけると思っています」

 今でこそ、ここ数年の不振や自身の現状など、すべてを受け入れられるようになった諸見里だが、シーズン前のオフは、ゴルフから完全に離れてしまう期間があったりして、苦しい時間を過ごしていた。

 昨シーズン終了後、諸見里は結果を出せない自分に変化を求めて「環境を変える」ことを決心。長らく通っていたゴルフアカデミーがあり、住み慣れた場所でもある兵庫県神戸市から離れて、東京都に拠点を移した。これまでの自分をすべてリセットして、再出発を図りたかったのだ。が、環境を変えても気持ちが晴れることはなかった。まして、新たなシーズンに向けて、ゴルフクラブを握る気分にはまったくなれなかった。

「家では"抜け殻"でした。起きて、ご飯を食べて、ボーッとして......。まるで病人のような生活をしていました」

 それでも、何もしていなかったわけではない。スポンサーへの挨拶回りをしたり、友人と食事をしたり、プライベートでゴルフに出掛けたりしていた。

「そうこうしているうちに、私の周りには心配してくれる人や、応援してくれる人がたくさんいることに気づいたんです。とりわけ、所属先のダイキン工業の井上礼之会長から激励していただいたことは本当にありがたかったですね。それと、普段からお世話になっている(昨季5年ぶりにツアー優勝を飾った男子プロの)片山晋呉さんが、今年1月のダイキン工業での激励会でサプライズのビデオレターをくださったんです。そのとき、『しのぶ、やっぱり勝つっていうのはすごくいいぞ! もう1回、ここ(頂点)に戻ってこい』と言ってくれて、胸が熱くなりました。(その言葉を聞いて)涙をこらえるのに必死でした......。あの言葉は一生忘れません。そこからですね、迷いがなくなったのは。もう(周囲に)心配をかけてばっかりではダメだ、と思って、本格的に練習を始めました」

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