【ゴルフ】2013年、松山英樹。世界を震撼させた「5つのスキル」 (3ページ目)

  • 三田村昌鳳●文 text by Mitamura Shoho
  • photo by Getty Images

 それはまた、松山の勝つことに対する執着心が異常に強いからできることでもある。もちろん、普通の選手も優勝は狙う。ただし、終盤を迎えて自分のポジションが優勝するには難しい位置だと悟ると、そこである種の“守り”に入ってしまう。「できるだけ、今の順位からは落ちないようにしよう」といった発想になることが多い。上を見ているとしても、「ひとつでも上の順位に上がれればいいな」と思う程度だろう。

 翻(ひるがえ)って松山は、常に標的が明快。どんな状況にあっても優勝を、トップを走っている選手のポジションを目指している。だから、すべてが噛み合えば、とてつもない爆発力を見せる。

 かつて、ジャック・ニクラウスやタイガー・ウッズは、一緒に戦う選手には脅威の存在だった。最終日を迎えて、彼らがトップと5打差も離れた下位にいても、安全圏と言われることはなかったし、上位にいる選手たちもふたりの存在を気にして、恐れていた。少しオーバーかもしれないが、松山はそうしたニクラウスやウッズに似ている。

 実際、全米オープンや、全英オープンではそれに近いプレイぶりを見せて、結果を残した。おかげで、松山は世界の選手の中でも、怖い存在、マークすべき選手のひとりになった。「あいつはこれから(大物に)化けるかもしれない」と。そういう感覚を他の選手たちに与えたことも、過去の日本人選手では考えられなかったことだ。

 さて、今秋日本に帰国してから、腰や手首など、体のあちこちを痛めた松山。世界を股にかけて、ハードなスケジュールをこなしてきたこともあるが、海外メジャーや米ツアーを戦う中で、日本では使ったことのない技術を習得しようして、その無理がたたったからでもある。

 言い換えれば、松山はそれほど技術の習得が早い、ということだ。

 際立っていたのは、距離感の誤差が極端に小さくなったこと。例えば、日本であれば、グリーン上の落としどころが2~3ヤードずれても通用するが、世界ではその誤差が1ヤード以内でなければ、致命的な結果を招くことがある。その危険を回避するための技術を、松山は早々に身につけた。

 そのひとつが、手首を返さずに、低くて強い球を打つカットショット。全英オープンのショートホールでは、その技術でピンに絡むようなショットを連発した。他にも、米ツアーの深いラフからのアプローチなど、一緒に回るトッププレイヤーの技を瞬時に自分のモノにしていた。その習得の早さには、誰もが度肝を抜かれた。

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