【男子ゴルフ】マスターズ開幕。ウッズの新時代がここから始まる (2ページ目)

  • 三田村昌鳳●文 text by Mitamura Shoho
  • photo by Getty Images

 一方、スイングの改良は、見た目にわかるようなものではなく、ほとんどが感覚的なものだった。なかでも最も重要視してきたのは、スイングの再現性だ。

 例えば、ピンまで残り35ヤードのショットで、どれだけ同じスイングで、同じ感覚のまま、同じ場所に落とせるか。それを、ひと晩寝ても、同じように再現できるのか。そのブレ幅を縮めていくことに、ウッズは専心してきた。すなわち、ひとつひとつのショットの精度をより高めるスイングを作ってきたのだ。

 そうした成果が徐々に表れ始めたのが、昨年だった。3月のアーノルド・パーマー招待で、復帰後初のツアー優勝を飾った。それを含めて、年間3勝を挙げた。そして7月の全英オープンで、ウッズは新たなスタイルの片鱗を見せた。

 最終日、前半9ホールを追えたウッズは3つスコアを落としたものの、上位陣も軒並みスコアを崩していた。バックナインの結果次第では十分に優勝のチャンスもあったが、そこでウッズが見せたゴルフは、非常に中途半端で、ウッズらしくなかった。これまでのウッズであれば、たとえリスクがあっても、グイグイと攻めるはずなのに、まったく冒険しなかった。ドライバーを握ることはほとんどなく、リスクを避けるゴルフに徹していた。

 だが、それこそウッズが新たに目指すゴルフだった。復帰してから最初にメジャーで勝つときは、20代の頃のようなイケイケのゴルフではなく、頭を使った円熟味のあるゴルフで、世界中の誰が見ても「ウッズは変わった」という勝ち方を示したかったのだ。そうすることで、過去の自分と決別し、あのスキャンダルも帳消しにしたいと考えていたのだろう。

 結局、優勝には手が届かなかったが、ウッズがやろうとしていることは、よくわかった。相手は関係なく、マネジメントをはじめ、ショットやパッティングなど、すべての精度を高めることだけに集中していた。そのうえで、4日間、72ホールの攻め方をきちんと描いて戦っていた。それが完璧に実現できれば、いくらでも優勝できそうなゴルフだった。気持ちの問題や技術面で歯車がかみ合わない部分があって、結果は出せなかったものの、すべてかみ合ったときには、誰も太刀打ちできないような、とてつもない強さを身につけそうな予感がした。

 迎えた今季、案の定、ウッズは驚異的な強さを誇っている。早くもツアー3勝を飾って、全英オープンでは未完成だったウッズのゴルフは、間違いなく完成形に近づいている。

 確固たる自信を持ってプレイし、肉体的にも、精神的にも、技術的にも、生まれ変わったウッズ。今や別次元の領域に達しつつある彼が、マスターズで負ける姿は想像できない。「完全復活」どころか、年間グランドスラムへの、新たな伝説がここから始まるかもしれない。

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