【ゴルフ】チェ・ナヨンを進化させた、たった1つのアドバイス (2ページ目)

  • 慎 武宏●取材・構成 text&photo by Shin Mukoeng
  • photo by Getty Images

 意外と思われるかもしれませんが、彼女は中学3年生で国家代表になり、メキメキと頭角を現したとはいえ、当時はパッティングが苦手で、かなり手こずっていました。それは、方向性や距離感、ボールフィーリングといった技術的な問題というより、心理的な問題が大きかったように思います。緊張のせいか、グリーン上では本来のリズムを崩し、大事な局面になればなるほど、イージーなパットを外してしまう脆(もろ)さがありました。

 そんな彼女が「個人レッスンを受けたい」と、私を訪ねてきたことがあったんです。私は、打ち方やフィーリングについてアドバイスしたあと、彼女にひとつの課題を与えました。

「逸(はや)る気持ちを抑えて、カップインの確信ができたときだけ打ちなさい」と。

「外すかもしれない」、「外したらどうしよう」という不安や迷いが一瞬でもよぎったら、ボールを打つことはもちろん、アドレスもさせなかった。自信が持てるまで"待つ"ことを義務づけたのです。

 少しでも多くボールを打って、フィーリングをつかもうとしていた彼女からすると、かなり戸惑ったことでしょう。自分に自信を持てる瞬間がなかなか訪れず、そのまま日が暮れてしまうこともありました。それでも、私は"待つ"ことを彼女に課しました。

 ナヨンだけではありません。国家代表や代表常備軍を集めた合宿でも、私たちコーチングスタッフは選手たちに「自信が持てるまで打つな」と教えます。そうすることで、自分の心理状態をセルフコントロールできる術を、心と体に染み込ませるのです。

 ゴルフというスポーツは、レベルが上がれば上がるほど、高度なメンタリティーが要求されるスポーツです。スイングが固まったトップレベルになると、技術面よりも精神面が勝敗を左右するポイントになりますし、精神状態が技術面にも影響を及ぼします。つまり、どのような状況で、もしくはどのような心理状態で打つかによって、ショットもパッティングも変わってくるわけで、どんな状況でも冷静さを保ってベストな選択ができる、セルフコントロールと判断力が不可欠となってきます。

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