リバプールのストーミングとレアル・マドリードのマドリディスモ。激闘の準決勝を制したCLファイナリストの戦術 (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

レアル・マドリードは新旧タレントのシフトチェンジ

 過去8シーズンで4回の優勝。計13回優勝のレアル・マドリードは、CLの申し子と言えるクラブだ。直近4回は偉大なクリスティアーノ・ロナウドの時代だが、優勝の原動力となっていたのはルカ・モドリッチ、トニ・クロース、カゼミーロのMFトリオである。

 今回も中盤の鉄板トリオは健在だ。また、ロナウドがいた頃はバイプレーヤーとして貢献していたベンゼマが絶対的エースとして君臨している。

 一方、新世代も台頭している。フェデリコ・バルベルデ、マルコ・アセンシオ、ヴィニシウス、ロドリゴ、エドゥアルド・カマビンガは、レギュラーないし準レギュラーとして活躍している。とくに左ウイングのポジションを完全にモノにしたヴィニシウスの突破力は、大きな武器だ。

 基本フォーメーションは4-3-3だが、CLでは4-4-2(ほぼ4-2-4)も点がほしい時に使っていた。もともとタレントありきの伝統があり、ライバルのバルセロナのようにプレースタイルがかっちりと決まっているわけではない。

 4-3-3もモドリッチ、クロース、カゼミーロありきで、この3人以外の組み合わせだと機能性も違ってくる。

 選手ありきのパッチワークに近いので、選手の特徴が出やすいかわりにチームとしての色は微妙に曖昧だ。ただ、ボール支配力は高く、堅守速攻もできる。どういう試合展開になっても対応できるのは強みで、それがCL決勝での無類の勝負強さにつながっている。あと出しジャンケンができるので、特化型チームの長所を削り、弱点をつきやすい。

 カルロ・アンチェロッティ監督は、新旧世代を活用している。準々決勝と準決勝で起死回生の得点を決めたロドリゴ、準決勝第2レグで中盤中央を支えたバルベルデ、カマビンガのように、試合終盤での若手投入で盛り返す。安定感抜群のモドリッチ、クロース、カゼミーロから若手の登場でギアが上がるのだ。

 シーズンを通してスムーズに世代交代を図り、なおかつそれが試合終盤に半ば別のチームとなってエネルギーが注入される形に仕上げたところは、ベテラン監督らしい絶妙のチーム作りと言える。

 戦術ではないが、絶対にあきらめずに勝利をもぎとる、逆境にあっても勝つものと決めてかかっている精神性はこのクラブが持つ伝統の力であり、それが受け継がれているところは最大の強みだろう。

 理屈ではなく、あるいはまだロジックとして解明されてはいないけれども、確実に勝ち方を知っている。マドリディスモ(マドリー主義)という曖昧な言葉が、魔法のように効力を発揮し続けている稀有なクラブだ。

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