W杯開催地カタールの現在をルポ。ジャーナリストが感じた、開催にあたっての課題とは?

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

 いよいよW杯イヤーがやってきた。1930年のウルグアイ大会から数えて22回目となるカタールW杯だが、この大会は多くの点において「初」が多い。

 たとえば中東で初のW杯。これまではヨーロッパで11回、アメリカ大陸で8回、アジアで1回、アフリカで1回。アジアでは2回目となるが、アラブ圏は今回が初めてだ。

 初めて秋~冬に行なわれるW杯でもある。これまでのW杯はすべて6、7月に行なわれてきたが、カタールの夏は最高気温が50度近くになる。とうていスポーツができる環境ではなく、比較的暑さの和らぐ11、12月に行なわれることとなった。そのためにヨーロッパを含む世界中のリーグ戦はカレンダーの変更を余儀なくされる。

 キックオフ時間はグループステージでは13時、16時、19時、22時の4パターン(最終節は18時と22時)、決勝トーナメントは18時と22時。ナイターが多いのは暑さ対策で、すべてのスタジアムにはエアコンも完備されている。ちなみに試合会場となる8つのスタジアムはドーハからほぼ1時間以内の場所にあるため、一日に3試合を観るなどの荒業もできるかもしれない。

 そしてもちろん、今回は初めてのコロナ禍でのW杯でもある。

カタールW杯で開幕戦と決勝戦が行なわれる予定のルサイル・スタジアム photo by Reuters/AFLOカタールW杯で開幕戦と決勝戦が行なわれる予定のルサイル・スタジアム photo by Reuters/AFLOこの記事に関連する写真を見る 初めてのことが多いために、実際にどんなことが我々を待ち受けているのかを予測するのが難しい。通常ならば1年前にテストイベントとしてコンフェデレーションズカップが開催されるが、今回、行なわれたのはアラブカップ。規模があまりにも違い、予行演習にはならなかった。

 私はこれまでカタールを4回訪れているが、この国は訪れるたびに毎回大きな変化を遂げている。大会1年を前にして、私はまたカタールへと飛んだが、以前砂漠だった場所にW杯のために作られた町が出現し、どこか蜃気楼を見ているような気がした。町に人の影がほぼ見られなかったことも、どこか非現実的な印象に拍車をかけていた。

 カタールは小さな国ながら、ひとり当たりのGDPが常に世界トップ10に入るリッチな国だ。人口は約290万人。だがカタール国籍の人はそのうちのたった1割で、残りの9割の外国人が、ほぼすべての労働を担っている。

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