今季強さが際立つリバプール。自分たちの正義「ストーミング」で小賢しいポジショナルプレーなどひと呑み (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

【時間が大切な「秒のサッカー」】

 ポジショナルプレーは、選手の頭の中に「地図」をインストールする。

 今、自分がフィールドのどこにいて、ボールがどこにあり、従って周囲の味方はどこにいるか。ポジショナルプレーを一言で説明するのは難しいが、サッカーにおけるナビゲーションシステムと考えればそう遠くないはずだ。

 カーナビみたいなものだから、図面とは相性がいい。作戦盤のようなもので説明するのに向いている。ボールがここ、味方はここ、敵はここ、だから選択肢は......という説明を理路整然とできる。ただ、作戦盤には重要な要素が欠落している。「時間」だ。

 トルシエやラングニックが重視した「秒」は、作戦盤には表れない。

 クロップ監督がドルトムントを率いていた時のキャッチフレーズで、リバプールの代名詞とも言える「ゲーゲンプレッシング」は時間勝負である。攻撃と守備の切り替えという時間の最小化によって、攻守がシームレスになる。ボールは保持するより敵陣に蹴り込むもので、ボールが敵陣にある限り、どちらが保持しているかはあまり関係がない。いずれにしても相手ゴールへ迫るための攻撃か守備があるだけだからだ。

 フィルジル・ファン・ダイクからモハメド・サラーへのお馴染みのロングパスも、毎度ピタリと通るわけではない。その精度はすばらしいけれども、やはり何回かは通らずカットされる。決して確率の高いパスではないが、敵陣で相手を背走させていれば、カットされてもゲーゲンプレッシングで奪ってしまえばそれでいいわけだ。

 むしろ、いったん攻撃に出ようとする相手の出鼻を挫くので、与える打撃はより大きい。攻撃のためのポジショニングは守備の役には立たないからだ。パスワークで緻密な守備ブロックを解体する手間も省ける。得点するために、バルサと同じことをやる必要はないわけだ。

 秒のアクションを繰り返し、そのインテンシティの嵐に相手を巻き込んで粉砕する。ストーミングと呼ばれる所以である。

3 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る