久保建英が「逆転はほとんど無理」な状況から放った一撃の大きな価値。王者アトレティコ撃破でマジョルカは上げ潮に

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 しかし、久保は緊張しているようには見えなかった。むしろ冷徹さが滲んでいた。荒野のガンマンの冷静さと剛胆さだ。

 リーガのGKたちは、簡単にはシュートを打たせない。"シュートを打たせる"という技術を持っている。シューターのコースを狭め、そこしかないというコースに打たせ、完璧にブロックする。

 この点ではオブラクはリーグでも屈指で、相手を制御する技術は神がかっている。ポジショニング、間合い、反応の良さが際立ち、これまで多くのシューターを意図的に動かし、罠に陥れてきた。だから自らが出し抜かれる、ましてや股を抜かれるなど、もってのほかだろう。それ故、失点直後の彼は怒り狂わんばかりに、右手で地面を叩いていた。屈辱を受けたに近い心境のはずだ。

 久保はオブラクを凌駕していた。ギリギリまで相手の体勢を見極めつつ、ほとんどコースがなくなった瞬間、モーションフェイントで相手の裏をかいていた。名手から呆気ないほどに「後の先を取った」のである。

「(シュートのところは)少しは緊張しましたよ、最後のボールタッチがやや短くなってしまったので。でも2カ月間、戦列を離れていて、ようやくいいことがあったなって思います」

 久保はメディアに対しては、淡々とゴールを述懐している。

 この結果、マジョルカは2つ順位を上げて、12位に浮上した。ヘタフェ戦から着実に勝ち点を積み上げ、降格圏内から脱出。久保の復帰は上げ潮となっている。

 2カ月ぶりとは思えないプレーを見せている久保は、もう1、2試合で完調に戻るだろう。先発に戻った場合、ポジションの問題がないわけではない。

「久保、イの2人同時起用は守備を弱めるのでは?」という否定的な意見はあるし、ルイス・ガルシア監督もためらいがあるようだ。

 しかし、レフティーの2人がかみ合うことでサッカーの可能性は何倍にも増す。何よりイにとって、久保ほどの理解者はいないだろう。イだけではチームの転落を止められなかったはずで、アトレティコ戦でも何度もお互いにポジションを変えながら、最適解を見つけ出そうとしていた。

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