メッシと代表に熱狂するアルゼンチン。カタールW杯への強い自信は吉か凶か (2ページ目)

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

 スカローニはもともと、スペインのデポルティーボ・ラ・コルーニャやマジョルカ、イタリアのラツィオなどでプレーしていた選手だった。ホセ・ぺケルマン率いるアルゼンチンのユース代表やA代表でもプレーし、"ぺケルマンの息子たち"とも呼ばれた世代のひとりだ(現代表のコーチには同じくペケルマンボーイズのロベルト・アジャラやワルテル・サムエルもいる)。

 そのため、彼には選手の気持ちがよくわかる。誰にも礼儀正しく接する彼はチームに落ち着いた柔らかい空気をもたらし、友達のような関係のチームができあがった。スカローニは監督の服を着た24番目の選手なのである。

「スカロネタ」はコパ・アメリカ大会中に生まれた呼び名だ。ブラジルとの決勝を前にして、スカローニは選手たちにこう語りかけたそうだ。

「コパ・アメリカの決勝でプレーできるなんて、毎日起こることじゃない。だから興奮していい、プレーするその瞬間、瞬間を楽しもう。それが我々のチーム、スカロネタだ」

 それ以来、選手もサポーターもメディアも好んでこの「スカロネタ」という言葉を使うようになり、それによって帰属意識がより高まった。われら同じスカローニ号の仲間、といったようなイメージだ。

 盛り上がりを物語るようなエピソードがある。アルゼンチンがW杯行きを決めたブラジル戦は、首都ブエノスアイレスではなく、内陸部のサン・フアンで行なわれた。人口10万人少々の町だが、そこに「スカロネタ」を見たい人々が押し寄せた。チケットを買うのに5キロの列ができ、窓口に人が殺到したため、15人の負傷者が出た。転売価格も高騰し、1800ドル(約20万円)で売られたが、すぐにそれも売り切れた。

 もうひとつ、アルゼンチンを盛り上げている理由がある。それは今度の大会が、おそらくメッシが出場する最後のW杯になるからだ。なにがなんでも勝っておきたい。勝たせてやりたい。もちろんメッシのためでもあるが、それだけではない。マラドーナ、メッシと世界最高の選手を擁してきたアルゼンチンだが、今のところそれに続く選手がいない。ここで優勝しておかなければ、次のチャンスはいつ来るかわからない。アルゼンチン人はこんなドラマチックな展開が大好きだ。

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