マンUのスールシャール監督は、アンタッチャブルな存在なのか。歴史的惨敗も現地メディアが解任なしとみる理由 (2ページ目)

  • 井川洋一●文 text by Igawa Yoichi
  • photo by Getty Images

 またこのオフには、ジェイドン・サンチョ、ラファエル・バラン、クリスティアーノ・ロナウドら、豪華な補強を施してもらった。戦力的には、欧州のエリートクラブのどこにも引けを取らない。それだけに、もし超一流の監督が指揮を執れば、どれほど強いチームになるだろう、と嘆きにも似た声が聞こえてくることもある。

 それでもなお、現役時代に"童顔の暗殺者"と呼ばれた48歳は、名門の指揮権を失っていない。その理由は、いくつかありそうだ。

 まずは「ミスター・ナイスガイ」と呼ばれるその人柄にある。その前向きで柔らかい性格は、選手やコーチ、フロントはもちろん、クラブの全スタッフから親しまれているという。例えば、キットを用意する係や掃除夫らにも快活に挨拶をし、誰とでも分け隔てなくコミュニケーションを取るらしい。

 そして何より、彼は御大ファーガソンの大のお気に入りなのだ。スールシャールは現役時代、1999年のチャンピオズリーグ(CL)決勝で追加タイムに逆転ゴールを決め、かの劇的な優勝劇の立役者となった。

 それはファーガソン監督にとって初のCLタイトルであり、最初で最後の真の3冠(プレミアリーグ、FA杯、CL)だった。それほど重要な功績を直接的に残した教え子をファーガソンは寵愛し、スールシャールの現役晩年から指導のイロハを伝授した。

 またファンの多くも、この期に及んで、現監督をサポートしている。『ザ・テレグラフ』紙によると、指揮官本人が「最も暗い一日だった」と振り返ったリバプール戦後の記者会見を終えると、外にはサポーターたちが待ち構え、写真やサインをねだっていたという。そこには批判的な言葉は一切なかったそうだ。

 これほどまでに愛されている"バンビ"(英国で愛くるしい人気者を現す際に用いられる表現)の首をはねたいと思う人は、なかなかいないだろう、と同紙は続ける。特に現在、ユナイテッドの運営を任されているエド・ウッドウォード副会長は、春に起こった"スーパーリーグ騒動"の責任を取る形で、今年いっぱいで任務を離れる予定なのだ。自らの最後の仕事として、そんな無慈悲な決断はできないのではないか、とこの保守系高級紙は見ている。

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