ファン・ダイク10人はメッシ10人より強い? 現代のセンターバックは超人的な万能性が必要になった (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

 融合とともに、FWやMFからCBへのコンバートもほぼなくなる。パオロ・マルディーニ(イタリア)、カルレス・プジョル、セルヒオ・ラモス(以上スペイン)のように、スピードと攻撃力のあるSBからCBへの横滑りはあっても、ほぼ攻撃力だけを買われてCBに起用される、かつてのリベロのケースはなくなった。

 逆にCBからMFにコンバートされる、あるいは試合によってどちらもこなすというケースは増えた。パリ・サンジェルマンのCBマルキーニョス(ブラジル)は、ボランチでも起用される。

 CBとボランチのどちらでもプレーできるタイプとしてはハビエル・マスチェラーノ(アルゼンチン)、フェルナンジーニョ(ブラジル)などもいて、それほど珍しいケースではない。コンバートではなく、普通にどちらでもプレーできる資質があるのだ。

 フィルジル・ファン・ダイク(オランダ)はCB専門だが、正確なロングフィードはリバプールの重要な攻め手になっている。最後尾からのロングパスで一気に局面を変えるプレーは、ベッケンバウアーやルート・クロル(オランダ)、ダニエル・パサレラ(アルゼンチン)、ロナルド・クーマン(オランダ)などのリベロが得意としていた。

 フラットラインになってからは、右のCBから左サイドへ、左CBから右サイドへと、対角のロングパスを届ける能力が要求されるようになった。

 プレスの厳しい中盤を飛ばして、相手のフラットラインの横へボールを前進させることが有効であり、かつてのリベロはこれのスペシャリストだったわけだが、どちらのCBにも標準装備されるようになっていった。CBに求められる技術レベルが上がっているわけだ。

 かつてのストッパー的なマークやタックル、空中戦の強さと、リベロ的な読みとカバーリング、ビルドアップ能力を兼ね備えているのが普通のCBとなり、さらにSB的なスピード、ボランチのような戦況把握能力、パスワークを兼ね備えたCBも珍しくなくなった。FKやCKでは相手ゴール前でヘディングシュートを狙うエースにもなる。

 リオネル・メッシが10人いるよりも、優れたCBが10人のほうがチームとして強いのではないか。

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