ファン・ダイク10人はメッシ10人より強い? 現代のセンターバックは超人的な万能性が必要になった

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

 レアル・マドリードでフェレンツ・プスカシュ(ハンガリー)の後継者として背番号10だったピリ(スペイン)は、ベッケンバウアー型のリベロにコンバートされている。各地で「○○のベッケンバウアー」が量産された。

 攻撃型リベロはFWやMFからの転向がむしろ定番で、それまでのDFとは異なる資質の選手がプレーしていた。のちにバロンドールを受賞するドイツのローター・マテウスやマティアス・ザマーも、MFからのコンバートだ。

 守備者というより、ディープ・ライング・プレーメーカーに近い。守備時にマークを持っていない状況から攻撃時にフリーになりやすく、それを利用して司令塔として機能していた。

 リベロの台頭によって、相手のセンターフォワードを徹底マークする「ストッパー」との棲み分けが明確になっている。従来型のCBであるストッパーでは、西ドイツのユルゲン・コーラー、イタリアのクラウディオ・ジェンティーレなど、「殺し屋」の異名を持つ選手たちがそれぞれリベロと組んで活躍した。

 リベロとストッパーは対照的な個性だったが、やがてそれが1人のCBに収れんされて現在に至っている。

<リベロとストッパーの融合>

 ストッパーとリベロの融合は、1990年代にゾーンディフェンスが普及したのと関連して進んでいった。

 それまでもゾーンディフェンスはあった。ブラジルはその代表格だが、2人のCBの1人はリベロ型、もう1人がストッパー型という組み合わせが多かった。ゾーンなので、マンツーマン+リベロのヨーロッパほど特徴の違いは明確ではないが、異なるタイプを組み合わせていた。

 1990年代に普及したゾーンディフェンスは、プレッシングを前提としたCBが横並びのフラットラインである。そのため左右のCBに見かけ上の違いはない。プレッシングの先駆けとなったミランは、左側のフランコ・バレージがリベロ型、右のアレッサンドロ・コスタクルタがストッパー型だったが、それは2人の特徴の違いにすぎず、役割としてはほぼ同じなのだ。

 フラットラインになってからCBは、いずれもカバーリングとマーキングの両方を担当しなければならなくなり、リベロが姿を消すと同時にリベロとストッパーが融合していく流れになった。

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