ベッカムからデ・ブライネまで「クロッサー」のスゴ技。ゴールへの重要手段、質の高いクロスの条件とは? (4ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

 タッチライン近くから長いクロスを蹴り込むのではなく、ペナルティーエリアの縦のライン近くまで進入してからの低いクロスが十八番だ。「ニアゾーン」「ポケット」と呼ばれるエリアからの仕事になっている。

 相手ゴールにより近づくことで、クロスのゴール前への到達時間は短くなり、距離が短い分、精度も期待できる。多くのチームがこのエリアへの進入を狙っていて、その効果を世界中に知らしめたマンチェスター・シティでは、定番の攻め手だ。

 デ・ブライネ以外の選手たちもポケットへ進入している。けれども、デ・ブライネ以上の威力を示している選手はいない。

 ボールとゴールを同一視野にとらえられない難しさがあるのだが、デ・ブライネは一瞬でゴール前の状況を読み取る目を持っている。そして決定的なのがクロスボールの質だ。体をひねりながら角度のついたキックを難なくこなす。

 右足のサイドキックは驚くほど高速で、相当無理な体勢でも精度が高い。DFとGKの間に打ち込むロークロスは、DFが一歩間に合わないが、背後の味方にぎりぎり間に合うコース、速度。かつてのDFの頭を越して落とすボールより、はるかに到達時間は短いが、職人的な感覚は似ているかもしれない。

 選手は自分のキックが届く範囲の状況しか見ないというが、デ・ブライネは高速高精度のキックゆえに、よりミクロな単位でボールを届けるべき「点」を見つけられるのだろう。

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