ベッカムからデ・ブライネまで「クロッサー」のスゴ技。ゴールへの重要手段、質の高いクロスの条件とは? (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

 1990年代になると、「クロッサー」と呼ばれる選手たちが台頭した。クロッサーはクロスボールを蹴る人であってポジション名ではない。プレーメーカーやストライカーと同じく役割を表した用語だが、意味は文字どおりでかなり限定的だ。

 クロッサーは主にサイドに位置する選手になるわけだが、もちろんクロスボールを蹴るだけではない。それなのにこういう呼び方をされていたのは、それだけクロスボールの優秀なキッカーへの需要が増してきたからだった。

 クロッサーの条件は、横回転のボールを蹴れること。横回転すればボールはカーブする。ただ、曲がることよりも重要なのは「落ちる」ことだ。ゴール前の味方FWは相手DFの背中にポジションをとる。DFとDFの間にいるFWにボールを届けるには、FWより手前にいるDFの頭を越さなければならない。

 DFの頭上を越えるが、その後ろにいるFWが触れる高さでなければならない。つまり、DFを越してFWに届くまでの2メートルぐらいの間にボールを落とす必要がある。

 無回転ボールでも落とすことはできるが、コントロールは定まらない。逆回転ボールでは速度が出ない。速くて落ちるクロスボールは横回転なのだ。曲がって落ちるボールを高精度で蹴る。その職人技の持ち主が、クロッサーとして重用された。

<クロッサーの最高峰ベッカム>

 90年代からクロッサーが重視されたのは、システムの影響もある。

 この時期の主流は、4-4-2か3-5-2だった。どちらも3トップ時代のウイングプレーヤーはいない。ドリブルで食い込んでのクロスではなく、スペースでパスを受けてタッチライン際から蹴り入れるクロスが多くなった。サイドバック、サイドハーフ(MF)、ウイングバックがクロッサーのポジションだ。

 クロッサーの最高峰はデビッド・ベッカム(イングランド)だろう。

 右足から放たれるクロスは放物線を描いて、ゴール前へ走り込む味方にピタリと合っていた。低くて速いアーリークロス、大きく曲がるハイクロス、フワリとしたチップ、ストレートの速い球筋など、種類も豊富で精度も格別。クロッサーの代表選手と言える。

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