「奇人」がいまや「普通」の戦術へ。現代のGKは足技なしには務まらなくなった (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by AFLO

 バルセロナとほぼ同時期に、リバプールも同じことをしていた。GKのビルドアップ参加はやがて世界的に広まり、現在ではそうしないチームのほうが少数派かもしれない。

 グアルディオラ監督が関わったチームのGKは、軒並み足技を進化させた。バルセロナのビクトル・バルデス、バイエルンのマヌエル・ノイアー、マンチェスター・シティのエデルソン。エデルソンに至っては、一発でFWとGKを1対1にする高精度なロングパス能力を備えていて、足技GKの代表格になっている。

 エデルソンほどではなくても、現代のGKは足技なしには務まらなくなった。場合によってはドリブルで相手FWを抜かなくてはならないこともある。大きな変化である。

 30年ほど前、GKがこうなると予想した人はほとんどいなかったはずだ。数人の例外を除いて。

<イギータ法>

 1980年代~90年代に活躍した、コロンビア代表のGKレネ・イギータの形容詞は「異色」だった。

 ペナルティーエリアから飛び出してリベロのようにクリアするGKは、それまでにも存在していた。「スイーパー・キーパー」と呼ばれた1960年代~70年代のオランダ代表のヤン・ヨングブルートをはじめ、そういうGKは過去に何人かいた。だが、イギータは別格だ。

 イギータはボールを蹴り返すのではなく、コントロールして味方にパスした。あるいは相手FWを1人、2人といなしてからパスするという、フィールドプレーヤーそのもののプレーをしていたのだ。

 コロンビアが久々のワールドカップ出場を決め、ナシオナル・メデジンがリベルタドーレス杯を制して南米最強クラブとなった輝かしい1989年は、イギータなしには訪れなかった。

 GKとしては小柄。しかし反射神経はずば抜けていて、リベルタドーレス杯決勝のPK戦では4本を止めて勝利の立役者だった。ドレッド風の挑発にヒゲ面、自由奔放なプレーぶりは、異色というよりもはや奇人変人の域と見られていたものだ。

 まだバックパスを手で扱える時代に足でコントロールし、ときには空中のボールをジャンプしながらカカトでクリアする「スコーピオン」など、奇想天外なプレーの数々で度肝を抜いた。

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