FIFA対プレミアの軋轢に発展も。ブラジル対アルゼンチン戦で何があったのか (3ページ目)

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

 アルゼンチン代表はロッカールームに引きあげ、キャプテンのメッシだけがカメラマンのビブスをつけて様子を見に戻って来た。しかしダニ・アウベスに「もう帰ったほうがいい」と説得され、彼もまた引きあげた。その後、アルゼンチン代表はホテルにも寄らず、ユニホームのまま空港に向かい、1時間半後には祖国へ向かう飛行機に乗っていた。

 アルゼンチン大使は、選手たちが無事空港までたどり着けるよう、ブラジル大統領にわざわざ電話をしたという。それほどものものしい雰囲気だった。こうしてまたブラジルとアルゼンチンの間に新たな因縁が生まれてしまった。

 ブラジルはアルゼンチンがブラジルの法をリスペクトしなかった上に、自ら試合を放棄したとして、FIFAに不戦勝を申し立てしている。

 一方、アルゼンチン側は「試合を開催する国として、ブラジルは特例処置を強く働きかけるべきだった。責任を十分に果たさなかった」と、これまたFIFAに不戦勝を訴えている。ブラジルが無理やり試合を中断したのは、9人のイングランド組のほか、マルキーニョスを出場停止で欠いていたから、アルゼンチンと戦いたくなかったのだという声も聞かれる。

 おまけに、ブラジルの次の対戦相手ペルーまでがこれに参戦する。試合が中断された後、ピッチには30人近くの人間がひしめいており、いわゆるバブルが破られたので、次のペルー対ブラジル戦は、自分たちの不戦勝だと訴えてきている。

 全てを知っていながら何の手段も取らなかったCONMEBOLは、「この試合はFIFAが主催なので自分たちは関係ない」と逃げの一手だ。FIFAはこの件について正式に調査を始めており、数日のうちに何らかの声明を出すはずである。

 さらに、今回の南米予選に関して、FIFAはイングランドに対して不満を持っている。W杯予選はFIFAの公式試合であり、各国クラブチームは所属選手を代表戦に出す義務がある。しかし今回、プレミアのほとんどのチームはこれを拒否した。

 選手を国外に出せば、帰国後の隔離措置も含めて、約1カ月近くその選手を使えなくなってしまう。来週はチャンピオンズリーグもあり、それはぜひとも避けたかったのだろう。そのため、今回は19人のプレミアの選手が南米予選に出場できなかった。(ちなみにアストン・ビラだけはAFAとの取り決めでアルゼンチン人選手の招集を認めた。また、『デイリー・ミラー』紙は、トッテナムの2選手がクラブに無断で代表に合流したと報じている)。

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