ユーロで優勝、イタリア復活の裏側。マンチーニはこうして「強い代表」を作った (3ページ目)

  • 利根川晶子●文 text by Tonegawa Akiko
  • photo by Reuters/AFLO

◆ユーロでイングランドがイタリアに敗れた理由。両チームにはどんな差があったのか

 特にヴィアッリはサンプドリアで長くマンチーニと2トップのペアを組んだ存在だ。「ゴールの双子」とも呼ばれ、「今でもまるで兄弟のような存在だ」とマンチーニは言う。そのヴィアッリは数年前に癌を患い、いつ再発してもおかしくないという。しかし、親友のために代表のコーディネーターを買って出た。

 その効果は大きかった。例えばインモービレとアンドレア・ベロッティは同じCFのライバルだが、彼らの間に妬みや嫉(そね)みは存在しない。インモービレがゴールを決めるとベロッティは彼をハグし、インモービレは「ベロッティがゴールをすると誇りに感じる」と言う。選手間には諍いがなく、互いを信頼し合い、マンチーニの人選を完全に信じていた。「ライバル関係がフランスを壊したのならば、イタリアは逆にそれを排したことで勝利したのかもしれない」と、前出のコンパニョーニ氏は言う。

 また、マンチーニは選手たちを厳しいルールで縛ったりはしなかった。キャンプ中の行動にもかなりの自由を与えた。選手たちを信頼していなければ、できることではない。バーベキューパーティを開き、食事のあとには自然と歌で盛り上がることもあった。マンチーニを始めスタッフがマイクを握ることもあった。

 選手は自然とコーチたちの話に耳をかすようになる。マンチーニとスタッフたちは、選手たちとの対話を非常に大事にした。ミーティングではコーチの誰かが、選手たちの心に響くような話をした。ヴィアッリがセオドア・ルーズベルト米大統領の有名な演説「アリーナに立つ男」の一節を朗読する場面もあった。

 レオナルド・ボヌッチは「誰に何を聞いても、常に明確な答えが用意されているんだ。だから我々は安心して練習も試合もすることができた」と、証言する。

 マンチーニは選手たちを大きな共感の渦に巻き込んだ。グループステージで26人中25人の選手を使ったのも、マンチーニの手腕である。誰もが自分が重要な選手であると感じさせ、すべての選手を同じように扱った。チームは全員のものになった。

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