メッシ退団発表でバルサを包む喪失感。今も鮮明に残る「僕は無敵」の言葉

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by AFP/AFLO

 ポルトガル代表MFデコと代わったメッシは背番号30番をつけ、緊張した様子は見られなかった。自らボールを持って仕掛けようとし、何度か奪われそうになる。それでも、彼は構わず前へ突き進んでいった。味方が裏に入れたパスに対して果敢に突っ込んで、GKと交錯しそうになっている。まるで、燃え盛る火の玉のように映った。

 試合終了間際だった。自陣から右サイドでパスを受け、メッシはひとりで抜け出す。1対1から果敢に仕掛け、強引に中へ入ったところを、強烈なスライディングタックルでクリアされたが、左足でシュートを打つつもりだった。

「チャンスを逃したな」

 試合後、ライカールト監督からメッシはそう言われたという。それは栄光を作るべきルーキーへの叱咤だった。

 メッシの姿勢は変わっていない。一貫してゴールに挑んできた。それが歴史を作った。

 10回のリーガ優勝、4回の欧州チャンピオンズリーグ優勝、3回のクラブワールドカップ優勝。個人としても6度のバロンドール、7度のリーガ得点王を受賞した。公式戦778試合に出場、672得点。1試合1点に近いアベレージは奇跡的だ。

 もっとも、彼が与えた記憶は記録に勝る。

 ピッチに立ったメッシは、何かをやってのける予感を漂わせた。ボールを持つと、立ちふさがるディフェンスを次々に翻弄。ネットを揺らし、熱狂を引き起こした。

「ボールを持ったら、僕は誰も恐れない。無敵なんだ」

 10代だったメッシにインタビューしたが、その言葉は今も肌を粟立たせる。事実、彼は誰にも止められなかった。

「メッシがバルサのバロメータ」

 そう語ったのは、最強時代を作ったジョゼップ・グアルディオラだが、メッシを中心にバルサはひとつの時代を過ごしている。メッシを生んだバルサの「育成」は、メッシによって完結した。シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、ジェラール・ピケ、ジョルディ・アルバ、セルヒオ・ブスケッツらと起こした化学反応は今や伝説だ。

 それほどの英雄が、このような形でバルサを去るべきなのか。そこには、悲しみしかない。それはバルサだけでなく、リーガ全体の喪失だ。

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