2021.07.19
ユーロ優勝、革新のイタリアにあった伝統。その象徴・キエッリーニが抜かれないカラクリ

- 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
- photo by Getty Images
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ただ、攻撃的とまでは言えないまでも、従来型も攻撃はしていた。リードするまでは極端に守備的だった印象もない。現在のようにインサイドハーフを2枚使うほど攻撃にリソースを割く余裕はなかったが、一応3トップで左SBの攻撃参加もあった。カウンターは鋭く、見応えのある攻撃もあった。
コンセプトがまったく違っているのは確かだが、ユーロの準決勝と決勝はむしろ従来型のイタリアに近かった。
<鉄壁の中身>
キエッリーニとボヌッチのコンビは大会中一度も抜かれなかったことが話題になっていた。ユベントスのベテランコンビは優勝の立役者と言っていいだろう。ただ、この「一度も抜かれなかった」を額面どおりに受け取ることはできない。
全部防いだわけではなく、防げない時は全部ファウルで止めているのだ。決勝でキエッリーニが、ブカヨ・サカの襟首をつかんで引き倒したファウルは退場ものだった。ただ、こうしたボールを奪えなければ最悪でも体は止める狡猾な守り方はイタリアらしさであり、強固な守備の文化と言えるかもしれない。
36歳のキエッリーニはユベントスの9連覇すべてに関与している唯一の選手だ。長身の左利き、かつては左SBだった。左SBからCBへのコンバートもファケッティ、マルディーニでお馴染みなのだが、キエッリーニにはマルディーニほどのスピードや技術はない。
そのかわり読みの確かさ、1対1で止める力があり、空中戦も強い。むしろCBのエキスパートという印象だ。最近は負傷欠場も多く、ユベントスから放出されるのではないかと言われていたが、ユーロの活躍で残留が決まったようだ。
初のメジャー大会優勝はキエッリーニの花道に相応しいが、34歳のボヌッチは来年のカタールW杯まで相棒を引き留めるつもりのようである。
新しいイタリアでありながら、伝統のイタリアらしさもあった。
サッキ監督が1994年アメリカW杯で準優勝した時と似ていた。あの時もモノをいったのは伝統。決勝がPK戦だったのも同じ。伝統に頼らず、後退もせず、新たな歴史を歩むかどうかは今後にかかっている。
キャプテンで伝統の象徴だったキエッリーニが去った後、どうなるかだ。