イングランドのケインが見せた「謎の感覚」。ゴール前で意外な器用さを発揮する

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

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サッカースターの技術・戦術解剖
第66回 ハリー・ケイン

<ゴール前でのストライカーの感覚>

 ユーロ準々決勝、ウクライナ対イングランドの50分のシーンだった。ルーク・ショーの左サイドからのクロスボールをハリー・ケインがヘディングでゴールした。この試合を4-0で快勝したイングランドの3点目だ。

ユーロで活躍中のハリー・ケイン。イングランドを優勝へ導くかユーロで活躍中のハリー・ケイン。イングランドを優勝へ導くかこの記事に関連する写真を見る ケインは定石どおりDFの背中側にポジションをとり、ゴール前へ移動していた。ところが、ショーがボールを蹴る直前に動きを停止し、一歩後方に下がったのだ。これでDFとの距離が開いている。

 そして、そのケインの頭上にぴたりと合うボールが飛んできた。難なくたたきつけてゴール。ウクライナ守備陣は、ゴール前で最もフリーにしてはいけない選手をフリーにしてしまっていた。

 なぜ、ケインはあそこで止まったのか。どうして「そこ」へボールが来ることがわかっていたのか。

 ゴール前には「謎」がある。ただ、この謎を解くのは容易ではない。

 本人に聞けばわかるだろうと思われるかもしれないが、経験から言って本人に聞いても7割がたは謎のまま終わるのだ。どう動いたかは本人だから当然承知している。ところが、その理由を明確に説明されることはほとんどない。多くの場合は「何となく」だった。

 史上最高クラスのゴールゲッター、ゲルト・ミュラー(当時西ドイツ)に「なぜ、あの時あそこにいたのか」と聞いたことがある。すると稀代のストライカーは「あの場面で、あの体勢であの選手がボールを持っていたら、ボールはあそこにしか来ない」と、自信満々に答えたものだ。

 1974年西ドイツW杯のユーゴスラビア戦の得点なのだが、ラストパスを送ったのはバイエルンのチームメートであるウリ・ヘーネスだった。状況とヘーネスの癖を掛け合わせれば、自ずと答えは出るという話である。そこで重ねて聞いてみた。

「そういう予測どおりにパスが来る確率はどのぐらいですか?」

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