欧州サッカー「監督玉突き」を引き起こすのは優勝したのに退任のコンテ

  • パオロ・フォルコリン●文 text by Paolo Forcolin
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

 アントニオ・コンテ監督がインテルを去るという知らせは、決して青天の霹靂ではなかった。多少なりともインテルの内部事情を知っている者にとっては、予測できるものだった。それでも多くのインテリスタにとって、ショッキングな出来事だった。

 インテリスタは、コンテをインテルのリーグ優勝の立役者と見ている。その彼がいなくなることは、世界の終わりのような"事件"なのだ。何年ものぱっとしない年月のあと、コンテはインテルをまたイタリアサッカー界のエリートの座に返り咲かせてくれた。就任1年目の2019-20シーズンはチームを2位に導き、ヨーロッパリーグの決勝に出場。そして2020-21シーズンはついに目標のスクデットにたどり着いた。

インテルに11年ぶりの優勝をもたらしたものの、監督を辞任したアントニオ・コンテ photo by Maurizio Borsar/AFLOインテルに11年ぶりの優勝をもたらしたものの、監督を辞任したアントニオ・コンテ photo by Maurizio Borsar/AFLO それにしてもなぜインテルとコンテは決裂したのか。それを知るには、インテルのオーナー、中国の蘇寧グループがコンテにチームを任せようと決断した時までさかのぼらなければならない。コンテはインテルが示してきた「3年でスクデットを手に入れる。そのために出し惜しみはしない」という計画を前に、首を縦にふった。

 さまざまな事業を展開する蘇寧グループの財力をもってすれば、それだけのチームを実際に作れるよう思えたからだ。実際、コンテの獲得にも彼らは莫大な資金を投入した。年俸は1200万ユーロ(約15億6000万円)。彼のスタッフにも十分な報酬を与え、補強にも金に糸目をつけなかった。

 実際、しばらくの間は計画どおりに進んだ。ひびが入り始めたのは、今シーズンの中頃だった。インテルは首位を守りスクデットにまっしぐらだったが、チーム自身には大きな危機がふりかかっていた。中国政府が企業の国外への資産持ち出しに制限をかけたことで、蘇寧グループはインテルにかける予算を抜本的に見直さなければならなくなったのだ。

 コンテは空気が変わったことを敏感に察知した。「再調整」という言葉がチームの周りでたびたび聞かれるようになる。コンテはこうしたクラブ幹部たちの会話から、選手たちを切り離すようにして、彼らがプレーだけに集中できるようにした。

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