酒井宏樹にサヨナラは似合わない。マルセイユ市民が愛した5年間の功績 (3ページ目)

  • 中山淳●取材・文 text by Nakayama Atsushi
  • photo by AFLO

 そんななか、チームはリーグ・アンで11月から14戦無敗の快進撃。結果的にそのシーズンはコロナ禍により中断されたリーグ戦が打ちきりとなり、チームは2位の成績を収めてチャンピオンズリーグ(CL)出場権獲得に成功した。中断期間中、痛めていた足首の手術に踏み切った判断も、そういう意味では絶妙だった。

 そして5年目の今シーズン、酒井は念願のCLの舞台に立ち、グループリーグ全6試合にスタメン出場。残念ながらチームは1勝5敗で敗退したが、サッカー選手の憧れの舞台でプレーできたことは、選手として大きな経験となった。

 ただ、今シーズンはマルセイユ加入以来、酒井にとって最も大きなターニングポイントとなったことがある。今年2月に成績不振のビラス・ボアス監督が辞任を申し出たことと、ストレスを溜めたサポーターがクラブのトレーニングセンターに乱入するという前代未聞の事件を起こしたことだ。

 それがきっかけとなり、批判を浴びていたジャック=アンリ・エロー会長が退陣し、スポーツ・ダイレクターのパブロ・ロンゴリアが新会長に就任。さらにアルゼンチン人ホルヘ・サンパオリが新監督に就任したことでシステムやスタイルが大きく変わり、結果的に酒井の居場所も失われてしまった格好となった。

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 とはいえ、酒井はまだ31歳。ヨーロッパの主要リーグでも十分に戦えるだけのレベルはキープしたままだ。その状態でキャリアの最後を日本で過ごす決断を下したことは、間違った選択とは思えない。それは、酒井にとっても、Jリーグにとっても、そして移籍金を残してもらうマルセイユにとっても、きっとポジティブな移籍になるはずだ(酒井はフリーでマルセイユに加入した)。

 唯一残念なのは、コロナ禍のため、フランスを代表するスタジアムであるヴェロドロームで、満員のサポーターから熱い声援と惜しみない拍手を受けながら、彼らに手を振って別れを告げることができないことだろう。酒井がクラブを去るとなれば、熱狂的サポーターたちは工夫を凝らした惜別のメッセージを用意してくれたに違いない。

 目下、外国人選手としてはチーム最古参。フランス国内で最も活躍し続けることが難しいとされるマルセイユで、これだけの実績を残した選手は多くない。だからこそ、酒井はマルセイユの人々から愛されたのだろう。

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