2021.05.12

イニエスタをさらに多彩にしたコロンビアの怪人。敵ボールは奪わない

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 赤木真二●写真 photo by Akagi Shinji

 相手を引きつけておいてパスを出す。そのパスがまたキレるのだ。キックの大半はインサイドキックだ。ボールの真横に置いた立ち足に対し、蹴り足のインサイドを直角に当てる。立ち足の膝を柔軟に保ち、やや腰を落としながら踵を押し出すようなフォロースルーをとる。教科書どおりの美しいフォームのインサイドキックながら、切れ味は抜群だ。局面をスパッと切り裂くナイフのような鋭さがある。

 南米という遠い場所まで出かけて行って拝む価値のある、芸術品と認定したくなる格調の高さを備えていた。身近なところで比較したくなるのはアンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)だが、バルデラマは、右利き然とプレーするイニエスタより、動きに幅が生まれる分だけ多彩だった。

◆小野伸二よりシャビが上回った特殊能力。ゴールへの最適な針路を示す

 イニエスタも「プレーが濃い」選手だが、バルデラマはその何倍も"コテコテ"だった。コパ・アメリカにはその後、たて続けに通うことになったが、欧州には珍しいそのコテコテ感を堪能したかったことがその最大の理由だ。

 バルセロナ、ビジャレアルなどでプレーしたフアン・ロマン・リケルメ、デポルティーボ・ラ・コルーニャでプレーしたジャウミーニャ、ベティスなどでプレーしたデニウソンらが、コテコテと称したくなる選手になるが、その南米臭さは、ある意味で古典的だった。

 欧州のサッカーを近代サッカーとすれば、フィットしたとは言い難い。バルデラマとポジション的に重なるリケルメが、バルサで出場機会に恵まれなかったことを考えると、バルデラマが欧州で4シーズンしかプレーできなかった理由がわかる気がする。

 日本代表でラモス瑠偉の背後に森保一が控えていたように、バルデラマには確かにいつの場合も、彼を取り巻く選手がいた。相手ボールになった時、バルデラマはボールを奪う作業に参加しなかった。ピッチの真ん中にいながら、その様子を眺めているだけだった。マイボールの時だけ活躍する選手。圧倒的なプレーを見せる選手。そうした意味で古典的だった。