小野伸二よりシャビが上回った特殊能力。ゴールへの最適な針路を示す (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 赤木真二●写真 photo by Akagi Shinji

◆シャビは新しいスペインを象徴するプレイヤーだ>>

 シャビが務めるインサイドハーフは、4番のポジションあるいは守備的MFよりポジションが1列高い。そのぶんだけ相手からのプレッシャーがきつくなることは言うまでもない。プレッシングの時代になればなおさらだ。シャビがデビューした頃は、まさにそうした時代だった。プレッシングの波は、加速度的に押し寄せていた。プレーする環境は厳しくなるばかりだった。

 その高い位置でシャビは、ボランチ的な才能を発揮した。展開力に富む長いパスを蹴るというよりも、細かな針路、具体的かつ現実的な方向性を提示するという感じで、味方を道に迷わせるような真似はけっしてしなかった。

 世の中には方向音痴な人が多くいる。地下鉄の駅の階段を上がり、地上出口に出た瞬間、右に行くべきか、左に行くべきか、スマホのマップと睨めっこしながら、フーフー言っている人をよく見かける。

 シャビはさにあらず、だ。ためらうことなく一歩目を、サッと踏み出すことができる。当時日本で流行った娯楽に、巨大迷路というアトラクションがあったが、バルサにおけるシャビのプレーを見るたびに、次のような思いを巡らしたものだ。シャビをこの巨大迷路に迷い込ませれば、どれほどで脱出するだろうか。きっと、何分もかからないに違いない、と。

 いまこの瞬間、どっちに進めば有効か。ピッチをスタンドの上階から俯瞰すれば、右か左か、それとも真ん中かが一目瞭然になる。右に出した方が有効であるのに、左に出してしまう選手には落胆させられるが、シャビにはそんなことが一切ない。すべてのボールタッチに間違いがない。巨大迷路には、なかなか抜け出せない人に、俯瞰で指示を送ることができる高い場所が用意されているものがある。スタンドの観衆が、選手にアドバイスを送るような感じだが、シャビにその声は要らない。

 視野が広いと言うよりも、東西南北が頭の中に完璧にインプットされているコンパス内蔵の選手と言うべきか。電波をキャッチするアンテナを内蔵していると言うべきか、GPS内蔵と言うべきか......。

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