史上1対1に最も強い右ウイング。フィーゴは1対98000の勝負にも挑んだ (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 赤木真二●写真 photo by Akagi Shinji

 フィーゴが、スポルティングからバルサ入りしたのは1995-96シーズン。時のバルサ監督は、このシーズンの終盤に解任され、チームを去ったクライフだった。 

 しかし筆者はその時、フィーゴがその5年後に、欧州年間最優秀選手賞(バロンドール)に輝くとは想像だにしなかった。実際、当時のフィーゴは、全盛期を10とすると7か8ぐらいのレベルだった。対峙する左SBをドリブルで縦にかわす確率に基づく印象になるが、その勝率は年々、ジワジワと上昇させていった。

 ウイングと言えば、「スピード豊かな」という形容詞が自動的に付随しがちだが、フィーゴはスピード豊かな選手とは言えなかった。タイミングを外して抜いていくタイプの技巧派だった。

 現在のサッカーシーンを眺めてもわかるように、右利きの右ウイングは、右利きの左ウイングに比べて少数派だ。貴重な存在なのである。

 右利きの左ウイングは、三笘をイメージすればわかりやすいが、利き足である右足(この場合、後ろ足)のインサイドで、ボールを押し出すように前進する。大きく踏み出すほど、縦方向への推進力は増す。すなわちドリブルしながら縦方向にアクセルを吹かすことができる。

 一方、右利きの右ウイングは、同じく右足でボールを運びながらも、縦方向に加速することができにくい。右足にボールをセットしながらスピードに乗ろうとすれば、右足は前の足になるから、後ろ足である左足に比べて、一歩で進める距離は短い。そのぶん、縦方向に加速することができにくい。  

 さらに相手SBを抜き去ろうとすれば、圧倒的な走力が不可欠になる。伊東純也(ゲンク)や仲川輝人(横浜F・マリノス)がこのタイプになるが、SBを抜き去るまで、どんなに俊足でも前方に一定の距離が必要になる。スピード勝負を挑むためには、最低でもゴールラインまで10~15メートルはほしいところだ。

 だが、フィーゴは例外だ。その場で相手を抜くことができる。ボールをほぼ右足1本で操作するのに、である。

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