バルサのデンベレが本領を発揮。天才独特の「ぬた〜ん」とした切り返し

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

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サッカースターの技術・戦術解剖
第53回 ウスマン・デンベレ

<切り返し王>

 ボールを蹴り始めて最初に覚える技のひとつが、おそらく「切り返し」だろう。右へ進んで急停止して左へ、もちろんその反対も。ただ、そのうちあまりやらなくなるものだ。ほかの技も覚えるだろうし、そもそも切り返しだけでは通用しなくなる。

得意の切り返しを武器に、活躍し始めたウスマン・デンベレ得意の切り返しを武器に、活躍し始めたウスマン・デンベレ ウスマン・デンベレは23歳だが、いまだに切り返している。フェイントと言えば、ほとんどが切り返しと言っていいぐらいだ。ところがデンベレの場合、こんな単純なドリブルなのに面白いように抜ける。というより単純だから抜けるのだ。

 フランスのレンヌのユースチームからトップに昇格して、わずか1シーズンでドイツのドルトムンントへ移籍した。ドルトムントではブンデスリーガ・ベスト11に選出され、最優秀新人賞も獲得。ただ、ドルトムントにいたのも1シーズンだけ。2017年にバルセロナ(スペイン)に移籍する。

 その時の移籍金額は1億5000万ユーロ(約195億円)。ネイマール(バルセロナ→パリ・サンジェルマン時)の2億2200万ユーロ(約288億6000万円)には及ばないが、20歳にして世界で2番目の高額移籍選手になった。バルセロナ史上では最高額だ。契約解除金としては4億ユーロ(約520億円)が設定されている。ただ、当初はかなり期待外れだった。

 負傷もあったが、プロ意識を疑問視されていた。遅刻が多すぎるのだ。たまに定刻に練習に現れるとニュースになった。

 過去のスターには、さまざまな武勇伝を持つ選手がいる。ロナウジーニョ(ブラジル)の夜遊びはパリ時代から有名だったし、ロマーリオ(ブラジル)は飲酒こそしなかったそうだが、他人の家から練習に行くことは普通だったという。イングランドは昔から酒にまつわるトラブルに事欠かない。サッカーと飲酒は切り離せない関係でさえあった。

 しかし、デンベレの場合はその類ではない。朝方までテレビドラマを観すぎたり、ゲームのやりすぎが原因らしい。外で豪遊しているわけではなく、たんにルーズなだけ。

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