ジーコジャパンに引導を渡したFKの名手が蹴った「消える魔球」の衝撃 (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 赤木真二●写真 photo by Akagi Shinji

 ジュニーニョにとって無回転キックは、数ある選択肢のひとつ。何種類もの変化球を投げ分ける投手とイメージが重なった。

 2006年2月22日。事件は、アイントホーフェンのフィリップススタジアムで行なわれたその第1戦で発生した。

 0-0で推移していた後半20分。リヨンはゴールに向かって右側、距離にして25メートル地点でFKを得た。通常なら左利きが蹴ることが多いポジションだ。

 ジュニーニョは右足で擦るように蹴ったのだろう。壁を越えGKの正面に飛んでいったボールには、思い切りスピンが掛かっていた。PSVのGK、ブラジル代表のゴメスは、両足を地面につけて立っていた身体を、なぜか急に横に投げ出した。後逸しないよう、まさに身を挺して構えたのだった。だが次の瞬間、ボールはブレるのではなく、ストンと落ちた。ゴメスには消える魔球に見えたのかもしれない。

 それは捕手が横に跳んだうえに後逸した感じだった。真ん中低めの、あるいはストライクと言われても仕方のない球を、だ。キックの瞬間、どうしてあのような回転を掛けることができたのだろうか。これが最大の疑問になる。立ち足をボールの横に踏み込む、一般的に見えるフォームだった。つま先から足の甲にかけての部位を、ボールと地面の隙間に鋭く差し込むように接触させたのだろうけれど、そんなことを考えると、ダフりやしないか、地面を蹴りやしないか、心配になる。

 バルテズを見逃し三振に切って取ったロベルト・カルロスの一撃より劇画的。ロベルト・カルロスのFKを"キャプテン翼的"とするならば、ジュニーニョ・ペルナンブカーノの一撃は、"巨人の星的"だった。これ以上、魔球度で勝るFKを見たことはない。

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