「イエニスタより上」だけど地味で繊細。ポストプレーもできる超絶技巧の選手がいた (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 赤木真二●写真 photo by Akagi Shinji

◆「リーガ史上、最も善人」のファンタジスタが語る、ペップから学んだ指導とは?>>

 記憶に残るプレーを挙げるならば、2002-03シーズンのCLグループリーグ初戦のワンシーンだ。ミュンヘン五輪スタジアムで行なわれたバイエルン戦。アウェーのデポルティーボが、ロイ・マカーイのハットトリックでバイエルンを3-2で下した一戦だが、光ったのは、その先制点の場面で、バレロンがマカーイに送ったスルーパス然とした縦パスだ。

 それはノールックパスを彷彿とさせる、バイエルンにとって想定外のラストパスだった。まさにエッジを効かせた足の操作で、ギュッと角度を変え、バックラインの背後に浮き球でふわりと落とした絶品の球質。フィギアスケーターが何の前触れもなくジャンプを飛んだような、サッカーがまさにアートと化した瞬間だった。

 バレロンは、言ってみればファンタジスタだ。背番号こそ21だが、典型的な10番タイプだ。しかし司令塔ではない。全軍を鼓舞するリーダー的な要素は持ち合わせていない。気合いを前面に出すファイターでもない。ひたすら飄々とプレーする職人気質のプレーヤーだ。抜群にうまいけれど華はない。

 ふたつのバランスが不均衡な選手。そうした意味ではイニエスタ的とも言えるが、こう言ってはなんだが、イニエスタが世界的に超有名な選手であるのに対し、バレロンは少なくとも日本では知る人ぞ知る名手にとどまる。判官贔屓したくなる気持ちをくすぐられるのは、断然バレロンだ。

 スペイン代表歴はあるが、スタメンを常時、飾っていたわけでもない。同じポジションに、ラウル・ゴンサレスがいたこととそれは深く関係する。お互い甲乙付けがたい才能の持ち主とすれば、スペインでは、レアル・マドリード所属の看板選手が優先される。ならばと、1列下がって守備的MFとしてプレーすることもあったが、ここにもグアルディオラ、シャビ、シャビ・アロンソなど力学的に上位となる選手がひしめいていて、バレロンはあぶれることになった。

 だが、バレロンがそこで何かを言い出すことはなかった。控え目で地味な態度をひたすら貫いた。

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