伊東純也は「マジシャン」。28歳、ベルギー3年目でキャリア最高の時

  • 中田徹●取材・文 text by Nakata Toru
  • photo by Getty Images

 今季の伊東は、前述のズルテ・ワレヘム戦のヒールキックだけでなく、クラブ・ブルージュ戦でも左からのクロスにヒールで合わせてゴールを決めるなど、魔法のようなプレーを見せている。絵本のティトは魔法の粉、魔法の杖、おかしな呪文で手品を成功させるので、ベルギーのメディアは伊東のことを『T-Ito』と書き立てたのだ。

 所属するゲンクは現在リーグ3位。ただ、チームは決して楽なシーズンを送ってきたわけではない。

 開幕時に指揮していたハンネス・ウォルフ監督(レバークーゼンの監督に就任予定)は成績不振により、たった5節で解雇の憂き目にあった。続くジェス・トルップ監督は3勝2分けとチームを上昇気流に乗せたが、母国デンマークの名門FCコペンハーゲンからのオファーに抗うことができず、「まるで泥棒のようにこっそり退団」(ベルギーメディア)した。

 現在ゲンクの指揮を執るのは、元オランダ代表MFのヨン・ファン・デン・ブロム監督。一時はチームを2位まで押し上げたが、今年に入ってから不振が続き「解雇か?」との噂も出ている。

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 今季のゲンクは監督交代によってシステムやメンバーが何度も変わり、負の連鎖にハマるとなかなか抜け出せなかった。伊東自身も、本来の出来から程遠い試合がいくつもあった。それでも、中盤のビルドアップに絡むなど献身的なプレーもできるので、伊東が大崩れすることはめったにない。

 伊東の今季出場時間は、リーグ戦だけならチーム2位、カップ戦も含めればチーム1位である。新型コロナウイルスの影響によって試合日程が厳しくなり、ローテーション制を採用した時期もあったが、ファン・デン・ブロム監督は伊東を休ませなかった。

 伊東が今季欠場したのは、出場停止の1試合だけ。伊東が新型コロナウイルスの陽性反応で隔離生活となった時も、試合当日の夕方に陰性が確認されてリーグから伊東の試合参加が認められると、ファン・デン・ブロム監督は電話で「試合に出てくれ」と頼みこんだ。

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