『鬼滅の刃』とサッカーの共通性は育成にも。カンテラの意味は石切り場 (2ページ目)

小澤 そうなんです。スペインでは育成組織を、石切り場を意味する「カンテラ」という言葉を使って表現します。これは、とくに鉱山が多いスペイン北部を中心に、ダイヤの原石や鉱石を発掘する場所を指す単語を、プロ化が始まった1950年代以降、お金を稼ぐプロ選手を育てる場所でもあるサッカークラブの育成組織に転用し、定着したことが、その由来とされています。その点では、確かに炭治郎というダイヤの原石を厳しい訓練によって磨き上げた鱗滝さんは、育成のスペシャリストだと思います。

 それと、忘れてはならないのが、炭治郎をスカウトして鱗滝さんに預けた水柱の冨岡義勇です。スペインの育成の世界では、選手の育手役となる育成コーチ以上に重要視されているのが、炭治郎のポテンシャルを見抜いて育手の鱗滝さんのところに送り込んだ冨岡義勇のようなスカウト、リクルーターの存在です。

 たとえば、天賦の才に恵まれたバルセロナのリオネル・メッシのような選手は育てられないわけですから、彼を見つけて即座に紙ナプキンで契約書を作ったジョゼップ・マリア・ミンゲージャという人物は、クラブのなかでも永遠に語り継がれるような名スカウトとして育成コーチ以上に高く評価されています。だから、炭治郎が鍛錬を積んで強くなっていくすべての出発点は、彼の潜在能力を見抜いた冨岡義勇の存在にあると、僕はとらえています。

中山 小澤さんが言った炭治郎と冨岡義勇の出会い、つまり鬼になった禰󠄀豆子といた炭治郎に、冨岡義勇が厳しい言葉をかけるシーンを思い返してみると、やはりタレントはストリートで生まれるということですよね。とくに南米サッカーでは、昔からストリートでサッカーをする子どものなかから将来のクラッキが生まれると言われてきましたが、これは南米に限った話ではなく、育成が組織化されているヨーロッパでもよくある話です。

 たとえばフランスを例にとっても、ジネディーヌ・ジダン、フランク・リベリー、キリアン・エムバペもそうですけど、貧しい地域のシテ(団地)にあるコンクリートの広場などでサッカーに夢中になって、そこでボールテクニックの基礎を身につけている。そうした意味では、まずは冨岡義勇のように才能を見抜く大人がいて、そのあとに地域のクラブで鱗滝さんのような育手に指導してもらいながら成長のステップを踏むという、育成の原点にある風景を『鬼滅の刃』の中に見た気がします。

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