ピルロがピッチにいない。非難集中ユーベ指揮官に突きつけられた難問 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Reuters/AFLO

 何かを起こす、という欲求が強く、ボールを持ちすぎると、それを相手に奪われてカウンターを浴びる。何より、自軍ゴールに近い場所では守備面の貢献が必要だが、単純に運動量が少なかったり、身体的にも屈強さがなかったり、マイナス面が出てしまうのだ。

「イタリアでは何より結果が求められる。1試合悪かっただけで、刑務所に送られるような気分になる。全く気が抜けない、凄まじいストレスさ」

 そうピルロは言うが、へこたれなかった。

「でも、悪いことばかりではない。私はそんなカルチョに強い魅力を感じるんだよ。重圧をひっくり返し、歓喜を生み出した時の感動。あれは何とも言えないものがあるから」

 技量だけでなく、図太さのある選手だった。その生き方に、ファンタジスタにありがちなひ弱さはない。なにしろカテナチオを伝統とする国で、サッカーを革新するようなプレーで数々のタイトルを勝ち取ったのだ。

 そしてピルロは、監督になってもファンタジーを捨てていない。むしろ、それを創り出そうと必死になっている。

 ユーベを率いて1年目のピルロ監督は、セリエAでは3位に低迷(3月12日現在)している。「セリエA10連覇」という至上命令は風前の灯火だ。

 ボールプレーを基調にした戦いを、確立するには至っていない。4バックと3バックを可変させるシステムで、攻撃時にはできるだけ前に人を集め、相手をノックアウトする狙いだが、カウンターを浴びることもしばしば。2トップのクリスティアーノ・ロナウド、アルバロ・モラタの一発で、勝ち点を拾ってきたのが実情だろう。ワイドに位置するFWフェデリコ・キエーザが遊撃兵の如く横やりをつけるようになって、攻撃の幅は広がったが......。

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 チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦では、ポルトの前に敗退した。ホームでの第2戦では、10人になった相手を攻めあぐねた。ボールを持たされた形で、批判が巻き起こるのは当然だろう。

「1本のパスに、次に広がるプレーのイメージが込められている」

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