「鬼滅の刃」を読むとサッカーがより面白くなる。共通点は多数あり (2ページ目)

中山 ひとつは、ストーリーが今の時代にとてもよくマッチしていることでしょうか。単純に弱い者が切磋琢磨しながら強くなって、最終的に強い鬼を倒していくという話にとどまらず、ひとつの目標を達成するためにみんなが協力し合って実現していく。そのなかで、それぞれの得手不得手を補完しあって、恐れずに立ち向かっていく柱や鬼殺隊の姿に心を奪われました。これって、よくありそうな話なのに、実は今の世の中ではなかなか実現しにくい話だと感じていて、そこに多くの人が惹きつけられているのではないでしょうか。

 サッカーでも、最近はCLでジャイアントキリングが起きる回数が激減していて、強者が常に勝ちつづけるような時代です。でも、15年くらい前までは格下チームが工夫されたサッカーで最大限の力を発揮して、格上を倒してしまう試合が1シーズンに何回かはありましたし、ノーマークのチームが旋風を巻き起こすことも毎シーズンのようにありました。そういうチームや試合を見た時の爽快感とか感動みたいなものが、この作品に共通しているような気もします。

小澤 これは内容の話ではありませんが、普段は漫画やアニメとほとんど接点のない生活をしている僕にとっても、ストーリー展開のテンポがよいので自然とのめり込めましたね。

 物語的には、竈門炭治郎も含めたみんなが強くなっていく過程のなかで、鬼のストーリーなどが挟み込まれていて、読み手がそれぞれの境遇を誰かしらの登場人物に投影できる部分もある。だから、登場人物全員を覚えるのは大変かもしれないけど、読んでいるなかで共感できる箇所が必ずあると思います。それぞれが何のために戦っているのか、あるいは鬼はどのようにして人間から鬼になってしまったのかなど、インサイドストーリーもしっかり描かれているので、より戦いのシーンに深みを感じました。

 これは最近のサッカーを見ていて感じることなのですが、とにかく試合が多すぎるので、試合の周辺にあるはずの大事なインサイドストーリーが、決定的に不足しているように思います。とくにコロナ禍による過密日程もあって、その選手にはどのような背景があって、どういった思いでプレーしているのかといったところがほとんど語られませんし、僕らもなかなか取材できい。だから、単にサッカーの試合をこなしているだけのように感じてしまうのかもしれません。それと比較すると、『鬼滅の刃』こそ、現在のサッカー界が失いかけているものが全部詰まっているように思います。

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