監督が重宝する多機能型の始まり。フランスW杯のコクーから酒井高徳まで (4ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 赤木真二●写真 photo by Akagi Shinji

 フリットは例外として、オランダは多機能型選手を有効に活かす戦術的交代の先駆者として欧州をリードしてきた。「オランダは国土の4分の1が海面より低い小さな国だ。常に頭を働かせていないと埋没する」とは、故ヨハン・クライフをはじめとする多くの指導者から直に耳にした台詞だ。

 水の脅威にさらされる小国の危機感が、サッカーでも動機付けになっている。対照的な存在は王国ブラジル。わかりやすい例はジーコだろう。

 2002年日韓共催W杯に向けて強化していた日本代表監督フィリップ・トルシエは、所属クラブとは異なるポジションで選手を試していた。伊東輝悦や明神智和など、普段真ん中でプレーしている選手をウイングバックで起用したり、その反対に普段、サイドでプレーしていた三浦淳宏(現・淳寛)を真ん中で起用したり、独自のアイデアを試していた。ジーコはそのやり方を痛烈に批判。「所属クラブと同じポジションでプレーさせるべし」とした。

 2002年以前の段階で、だ。そして2002年W杯が終了すると、トルシエの後任として代表監督の座に就いた。ブラジルという大国のメンタリティで、「小国ニッポン」を率いてしまったのだ。

 最近の日本人選手で最も多機能性に溢れる選手を挙げるならば、酒井高徳(ヴィッセル神戸)だ。左右両SB、代表チームでは守備的MFを務めたこともある。ドイツ代表及びバイエルンで同様の多機能性を発揮したフィリップ・ラームの日本版だ。

 ラームに酒井が勝る点は、左SBに回った時、右利きなのに、あたかも左利きのように、ボールを操作する姿だ。ラームは左に回っても、右利きだとすぐに分かるボールの持ち方をするが、酒井は左利きになりきったようにプレーする。このタイプは、世界広しといえども、そうザラにはいない貴重な選手だ。

 4-2-3-1なら、前の4ポジションをすべてカバーした本田圭佑と岡崎慎司。CBなのにCFとしてプレーする時間が長かった田中マルクス闘莉王。浦和レッズで活躍した山田暢久もいる。

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