すべてを失ったW杯のヒーローたちのその後。ブレーメ、ガスコインは今 (2ページ目)

  • 利根川晶子●文 text by Tonegawa Akiko
  • 山添敏央●写真 photo by Yamazoe Toshio

 ブレーメはいくつかのテレビのリアリティショーに出演して多少の日銭を稼ぐが、それでも返済には追い付かない。誰かの助けが必要な状態だったが、プライドが邪魔をして、自分からそれを求めることができなかった。皇帝フランツ・ベッケンバウアーは、そんなブレーメの現状を目にし、あるインタビューでドイツサッカー連盟への提言としてこんな発言をした。

「我々はブレーメを助ける必要がある。彼はドイツサッカーに大きく貢献し、3度目の世界チャンピオンのタイトルをもたらしてくれた。我々は彼に恩返しをしなくてはいけない」

 その言葉を聞いて最初にアクションを起こしたのが、ブレーメの監督時代の教え子オリバー・シュトラウブだった。彼は選手としてはブレ―メの足元にも及ばなかったが、商才はあったようで、引退後はトイレの清掃会社を経営していた。シュトラウブはブレーメにその清掃員の仕事をオファーする。彼はメディアに対しこう言っている。

「ブレーメには、わが社の掃除の仕事を用意した。そうすれば彼は現実の世界の"仕事"とはなんであるか知ることができるだろう。彼自身のイメージも良くなるはずだ」

 シュトラウブがどういうつもりでこんな申し出をしたのかはさだかではないが、「世界チャンピオンがトイレ清掃員になる」というニュースは面白おかしく報じられた。これはブレーメを傷つけ、この申し出を受けなかった。

 最終的に手を差し伸べたのはベッケンバウアー本人だった。バイエルンの名誉会長である彼は、ブレーメにチームのスカウトの座を用意した。ブレーメは借金を返し終えるまでの数年をスカウトとして働いた。スイス代表のジェルダン・シャキリ(現リバプール)を見つけてバイエルン、インテルでプレーさせたのはブレーメである。

 現在、60歳のブレーメは、ミュンヘンのグロッケンバッハ地区のごく普通の住宅に住んでいて、近所の人とも気さくに話をする静かな生活を送っている。昨年の3月には家のベランダで、バスローブ姿でインタビューを受ける様子がドイツのDAZNで公開された。今は少し落ち着いて、自分の人生を見つめ直せるようになったのかもしれない。

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