小野伸二とベルカンプ。名手の究極トラップで感じたポジションの違い (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 赤木真二●写真 photo by Akagi Shinji

 50メートル以上、空中を漂っていたボールが落下した瞬間、ベルカンプはつま先に近い足の甲でトラップ。その次のステップで、軽く浮いていたボールを間髪入れず、足の裏の親指の付け根付近を使ってコントロールし、ボールの勢いを完全に殺すとともにボールを前方に押し出したのだ。 

 この超高度な連続動作を目の当たりにし、慌ててバランスを崩すアジャラを尻目に、ボールを押し出した勢いそのままに前進するベルカンプ。GKカルロス・ロアと1対1になると、右のアウトでゴールネットを突き刺した。オランダサポーターは総立ち。オランダベンチから全員が飛び出し、ベルカンプのもとに駆け寄った。

 高尚な、サッカー選手の技術の粋を見せられたような究極のトラップ。たかがトラップ、されどトラップと言いたくなる、観戦史上最高のまさに魔術的なトラップだった。

 それまでの10番、すなわち2トップ下で構える中盤的な10番なら、リフティングするように止めた後、その周辺に留まり、ゲームメークに及んでいたはずだ。こう言ってはなんだが、小野ならばそうしていただろう。トラップをしてなお、ボールを押し出すように縦に前進。その流れでシュートを放つという選択肢はなかったと思われる。9番に近い10番。2トップ下ではない、1トップ下の10番に相応しいFW的なプレーと言ってもいい。

 実際、1トップが存在するオランダの4-2-3-1は、それまでサッカー界には存在しなかった布陣だ。オランダ代表監督フース・ヒディンクが、初めて口にした4列表記になる。

 対するダニエル・パサレラ監督率いるアルゼンチンが採用した3-4-1-2は、10番が2トップ下に位置する典型的な布陣だ。日本でも流行することになったのはアルゼンチン型。4-2-3-1ではなく3-4-1-2だ。1トップ下の概念の浸透が遅れた理由である。10番と言えばゲームメーカー、司令塔。パスの出し手であり、受け手ではない。

 もしこの感覚がいまなお日本のサッカー界に残っているとすれば、ベルカンプのトラップを見よ、と言いたくなるのである。

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