マラドーナ、狂乱のナポリ時代。「神の子」の転落が秘蔵映像で明らかに (4ページ目)

  • 桜田進ノ介●文 text by Sakurada Shinnosuke

 ナポリは翌シーズンのUEFAカップも制し、89-90シーズンには2度目のスクデットを獲得、マラドーナの名声は盤石に見えた。だが、この前後から彼の運命は急速に暗転していく。

 ナポリでの愛人クリスティアーナ・シナグラとの間にできた子の認知をめぐる揉め事が裁判沙汰になり、90年のワールドカップ・イタリア大会では準決勝で開催国イタリアに勝利したことから微妙な立場に置かれる。クラブを出たいとナポリの会長に打診すると、そのことが世間に知れてさらに評判を落とす。追い討ちをかけるようにマフィアとの親密な交際が暴露され、コカイン所持と売春の容疑がかけられる。メディアに叩かれ、ついにはドーピング検査でコカイン陽性反応が出て、アルゼンチンの当局に逮捕されてしまう。

コカイン所持の容疑でアルゼンチン当局に逮捕されるマラドーナ © 2019 Scudetto Pictures Limitedコカイン所持の容疑でアルゼンチン当局に逮捕されるマラドーナ © 2019 Scudetto Pictures Limited

 映画はこうしたマラドーナの転落劇も"秘蔵映像"を駆使して丁寧に描いていく。そこに映るマラドーナの表情は悲痛と困惑でいっぱいだ。神と崇められた男が、いとも簡単に墜ちていく様子について福島氏は「時代背景が一因となっているのではないか」と指摘する。

「80年代、一気にスターダムにのし上がり、スキャンダルまみれになったという意味では、分野は違いますが、マイケル・ジャクソンと共通する部分があります。スターといっても彼らは若く、あの時代はまだ、今のように異常な状況に置かれた者を周囲が心理的にケアするシステムもなかったはずです」

 タイトルの『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔』は、現役時代のマラドーナが信頼を寄せていたパーソナルトレーナー、フェルナンド・シニョリーニ氏の言葉に由来する。"ディエゴ"とは、ひたむきにサッカーに打ち込む一人の若者であり、"マラドーナ"とは社会が作り上げた偶像を指す。そして「マラドーナはいつもディエゴを振り回した」と同氏は証言する。

サッカーの特殊な才能はマラドーナに栄光と名声を与えると同時に、もはや彼自身にはコントロールできない混乱と苦悩をもたらした。結果的に、存命中ギリギリのタイミングで制作されたことになるこの作品には、その両方が鮮やかに映し出されている。

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