乾貴士に弱点はなくなった。いま欧州組で最も計算できるアタッカーだ (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 中島大介●写真 photo by Nakashima Daisuke

 そして5シーズン目はエイバルに復帰し、再び貴重な戦力となり、現在に至っている。乾ほど長く継続的に、スペインで活躍を続けた日本人選手は他にいない。試合を重ねる中で、確実に成長してきた。

 今シーズンは、得意とする左サイドでのプレーだけではない。右サイドアタッカーとして、精度の高いクロスを放り込むなどして相手にダメージを与え、適応力の高さを証明。グラナダ戦では、左サイドで売り出し中の若手ブライアン・ヒルからのクロスにヘディングで突っ込んでゴールを脅かすなど、"3番目のFW"としての働きもやってのけるようになった。

 また、レアル・マドリード戦、アラベス戦などではトップ下としてもプレーしている。ゴールに向かってドリブルするときの迫力は白眉。基本は2トップのチームだけに、乾が戦術オプションとなっている状況だ。

 前線でボールを呼び込む乾は、コントロールが難しいロングパスもぴたりとトラップし、一気に抜け出せる。そのワンプレーだけで、相手ディフェンスに脅威を与えられる。敵に対する精神的な負担となっていると言える。事実、レバンテ戦も序盤に左サイドで完璧なコントロールから抜け出し、好機を作った。これで、相手の攻め上がりを抑制することができたのだ。

 メンディリバル監督は攻守一体を重んじるだけに、乾を"相手ののど元に突き付けた短剣"と位置付けているのだろう。

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 欧州で戦う日本人アタッカーの中でも、乾は最も計算が立つ選手と言える。メディア受けはしないが、実務能力はすこぶる高い。経験を重ね、弱点はほぼなくなった。

 あとは単純に試合を決めるプレーが求められる。端的に言えば、ゴールだ。

「久保は、ピッチでふてぶてしさを見せる。ボールを受けたら、周りをボスとして動かす。敵に挑みかかっていく力は相当なものだろう。乾にはそれがない。それは私が彼に求めているプレーでもあるんだ」

 乾の最大の理解者と言えるメンディリバル監督の言葉は、重く受け止めるべきだろう。そのメッセージが、今シーズンの積極的なプレーに結びついているのかもしれない。

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