「名選手、名監督にあらず」を覆したスーパースターと言えば?

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by Getty Images

 現役引退を表明したスポーツ選手が指導者の道に進もうとしたとき、その理由について、たいていこう答える。

「恩返しがしたい」

 それまで選手として携わってきた競技に、指導者になって「還元したい」というわけだ。

 どこまで本気でそう考えているのか。その心中はこちらで推察するしかないが、いずれにせよ、"恩返し"がお安く使用される傾向があることは確かだ。

 だが、"恩返し"は簡単な話ではない。選手と指導者とでは、求められる資質や適性が大きく異なるからだ。それに、指導者、特に監督を目指そうとしているすべての人が、その競技の進歩、および普及・発展に貢献できる能力を備えているわけではないのだ。

 そこで思い浮かぶ言葉が、"名選手、名監督にあらず"である。

 そして、この格言がどのスポーツより当てはまるのが、サッカーだ。どれほど優れた選手であったとしても、監督として現役時代と同様、あるいはそれ以上の実績を残した人物は非常に少ない。

 サッカーほど、試合の結果や内容が監督の采配に委ねられるスポーツも珍しい。はたして、そんなスポーツにあって、その格言を覆した存在はいるのだろうか。

 まずは、名選手の証として認知されているバロンドールの歴代受賞者に目を通してみた。この中に、のちに監督となり、「名将」と呼ばれた人はどれほどいるのか。

 監督として、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)での優勝回数が最も多いのは、ジネディーヌ・ジダンだ。ボブ・ペイズリー(リバプールで3度優勝)、カルロ・アンチェロッティ(ミランで2度、レアル・マドリードで1度優勝)と並ぶ優勝3回は、チャンピオンズカップ時代を含めて史上最多の優勝回数となる。

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