久保建英の前に「冬の移籍」の壁。救世主的な活躍が難しい理由

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 1月8日、久保建英がビジャレアルからヘタフェに移籍することが発表された。

「冬の移籍市場」

 1月4日から2月1日までオープンしたマーケットを活用しての移籍は、"四者四様"の思惑が合致した形だった。出場機会を必要としていた久保、状況を憂慮していた所属元のレアル・マドリード、ボランチ獲得にプライオリティがあって久保を出したかったビジャレアル、そして下位低迷で戦力補強が急務だったヘタフェ。パズルのピースがぴたりと合った。

 その点、新たな道を行く久保の視界は良好だ。ただ、冬の移籍はリスクを伴うのも事実である。

ビジャレアルからヘタフェに移籍した久保建英ビジャレアルからヘタフェに移籍した久保建英「冬の移籍は必要ない」

 レアル・マドリードのジネディーヌ・ジダン監督は、フロントにそうクギを刺しているという。欧州3連覇を果たした指揮官は誰よりも勝負の機微を知るが、クラブ内に波風が立つのを何よりも嫌う。シーズン途中で加わった選手が適応する難しさを心得ている。その点、戦力外選手の放出でさえも、基本はシーズンが終わってからだ。

 それほどに、冬の移籍はデリケートなのだろう。

 実際、過去の例を見ても、冬の移籍で獲得した選手が、そのシーズンに救世主的な働きをする確率は低い。かつては冬にも大型補強が多く発生したが、昨今は限定的になった。ギャンブル的要素が強いからだ。

 たとえばバルセロナは、ルイス・スアレス(アトレティコ・マドリード)の代役として、2019年はケヴィン・プリンス・ボアテング(モンツァ)、2020年はマルティン・ブライスワイトというFWを冬に獲得しているが、ほとんど貢献できず、もはや散財に近かった。切羽詰まって補強しても、効果は望み薄だ。2018年1月には、フィリペ・コウチーニョを1億6000万ユーロ(約200億円)という天文学的な移籍金を支払って獲得したが、今や市場価値は3分の1以下と言われ、クラブの屋台骨をぐらつかせるほどだ。

 昨シーズン、リーガ・エスパニョーラで一番高価な"冬の買い物"をしたクラブは、エスパニョールだった。なんと4000万ユーロ(約52億円)以上を強化に費やしたが、結局は2部に転落した。レアル・マドリード下部組織育ちのストライカー、ラウール・デ・トマスだけでクラブ史上最高額の2000万ユーロ(約24億円)を支払ったものの、4得点と残留には不十分な働きだった。

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