スーパースター、R・バッジョの今。渋谷で語ったカズへの羨望と今後の夢 (3ページ目)

  • 利根川晶子●文 text by Tonegawa Akiko
  • 山添敏央●写真 photo by Yamazoe Toshio

 しかし、描いたサッカーの未来を、そのままお蔵入りさせるのは悔しかったのだろう。辞任直後にゲスト出演したサンレモ音楽祭(イタリア最大の音楽祭)で、バッジョは若者に向けて手紙という形でメッセージを送った。

 その中でバッジョは、若者に大切なのは情熱、喜び、勇気、成功、犠牲だとし、「努力する者には、いつかの希望がある、自分たちの夢を抱きしめ、それに続いてほしい。本当のヒーローとは日々を精いっぱい生きる人のことだ。君たちもぜひそんなヒーローになってほしい」と結んでいる。

 現在、バッジョは故郷のカルドーニョに近い、ヴィチェンツァ郊外のアルタヴィッラ・ヴィチェンティーナに家族と住んでいる。時間があれば趣味のハンティングにも出かける。バッジョがハンティング好きなのは父親譲りだ。その理由を彼自身はこう説明している。

「僕は8人兄弟の6番目で、ハンティングは父親と過ごせる数少ない時間だった。それになにより自然の中にいると、自分が自分であることができる」

 バッジョと同年代の元選手でも、多くがSNSのアカウントを持っている昨今だが、バッジョはツイッターもインスタグラムもやっていない。しかし、かわりに28歳になる彼の長女、ヴァレンティーナ・バッジョが頻繁に彼の近況を教えてくれる。つい最近ではアウトドアに出かけるバッジョの写真を投稿し、その車が古い形のフィアット・パンダ4×4だったことから、一部のカーマニアを喜ばせた。

 またヴァレンティーナは最近の近況だけでなく、選手の頃のバッジョの秘話も教えてくれる。94年のアメリカW杯中に、バッジョに「君たちが近くに必要だ」と言われて急遽、家族でアメリカに渡ったこと。2002年日韓W杯の代表に呼ばれなかった時のバッジョの失望。現役最後の頃は膝がもうボロボロで、彼女がつらそうなバッジョに「私の足をあげる」と言ったこと――。

 イタリアではこうした本人や家族の証言を基にしたバッジョの伝記映画がネットフリックスで配信される予定だ。タイトルは『ディヴィン・コディーノ』である。

3 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る